第三部・魔界王国の野望編 (3)
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その日はドランブイの家で休み、出発は翌日になってからだった。
外に出て、トモエは昨日と明るさが殆ど変わらない、つまり暗いままであることに驚いた。けれど、ここは地下世界だから日が当らないのだとすぐに納得した。昼夜という概念がここにはないのだ。
「こっちでさ」
ドランブイが指さしたのは、じめじめとした細い路地だった。けれど、こんな通りを案内されるのは初めてではなかった。出発してから、彼はこのような細く、クネクネと入り組んだ道ばかりをトモエたちに通らせていたのだ。
「どうしてこんな回りくどい道ばかり案内するのだ」
ソーホーが云った。少し苛立ったような口調だった。前を歩いていたドランブイは、ソーホーの方を振り返った。
「へへ。お前さんら、このあたりの大通りを歩いたら、すぐ魔物たちの格好の餌食になるぜ。お前さんら、俺たちからしちゃたいそう豪華なお召し物を身につけていらっしゃるからな。――昨日のことを忘れたわけじゃなかろう」
昨日、トモエとソーホーは最下級の身分の魔物たちに襲われかけた。今後、そういうことがないよう、気をつけたほうが身のためだと、ドランブイは指摘したのだ。
「――しかし、こうクネクネと歩かされては、いつ魔界城にたどり着けるものかと心配になるぞ」
ソーホーはなおも食い下がった。
「絶対にたどり着く。安心しな」
ドランブイは短く云って、前に向き直った。
「――ったく」
ソーホーは短く不満を口にした。
「ソーホー、この人を信じようよ」
トモエが云った。それでも、ソーホーは不満げ様子である。
「人じゃなく魔物だろ。まったく、はやくディタを救い出して、地上世界へと還りたいものだ――」
もうしばらくクネクネと歩いたところで、
「おう、ここだここだ」
と、ドランブイは立ち止まりその場にかかんだ。何をするのかと見ていたら、彼は道路の上のマンホールを持ちあげ、片隅へとどけた。
「まさか、その穴に入れというわけではあるまいな?」
「そのまさかじゃよ」
ソーホーの質問に、ドランブイは平然と答えた。
「なんだと、きさま、本気で私に下水道を通れというのか」
「そうだ。これが魔界城への近道になる。しかも、連中に知られてない秘密の抜け道じゃ。王さんの手下どもに見つからずに、ディタ姫のもとへたどり着けるかも知れんぞ。そしたら、こっそり姫さんを逃がして、また新たに戦う体勢を整えることもできるじゃろう」
「嫌だ。私は通らんぞ。王子である私が、どうしてこんな汚いところを通らねばならんのだ」
ソーホーは腕組みしてそっぽをむいた。何が何でも、穴には入りたくないようだ。
「そこまで云うのなら、お前さんの好きにすりゃいい。ディタ姫を救う気がないんだったらな」
ドランブイは相変わらず平然とした口調であったが、ソーホーはキッと彼を睨んだ。
「きさま、私がディタのことをさほど気にかけていないというような口ぶりだな」
「この程度のことを我慢できないようじゃ、そう思われても仕方ねえよ」
「何を……!!」
ソーホーがドランブイに食ってかかろうとしたところへ、
「ソーホー、わがまま云わないで」
と、彼をたしなめたのはトモエだった。
「わがまま、だと?」
ソーホーはトモエを睨んだが、トモエが目をいからせているのを見て、
「……分かったよ」
としぶしぶ従った。彼はどうにもトモエには弱かった。




