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第三部・魔界王国の野望編 (1_2)


「――おい、あんたら」


 ふいに後ろから声をかけられた。ビクッとしてふたりが振り向くと、そこに立っていたのは醜い姿をした老人だった。顔は青白いというよりは緑に近く、やせていて、ギョロッとした目でこちらを見ている。


「きさま、何者だ」


 ソーホーはとっさに身構えた。老人はへっへっへ――と不気味な笑い声をあげ、


「そんなに警戒しなさんな。別にとって食おうってわけじゃねえ」

 としわがれた声で云った。それから、持っていたランプをトモエとソーホーに近づけ、顔をじっとうかがう。


「やっぱり、お前さんらこのへんの奴じゃないね。地上世界の人間かい」


「そうだ。私はオレジン王国のソーホー王子。そしてこっちはトモエだ。我々は、ディタ姫をさらったスミノフ一派と戦い、姫を助け出すためにやって来た。――きさまは誰なんだ。早く名乗れ」


「俺ぁ、ドランブイっていうちんけなジジイでさ。それよかお前さん、俺らの国の王さんと戦うとか云っていたが、このへんであまりそんなこと口走らない方がいいぜ」


「何をいう。そんなことをいちいち気にしていて、王子がつとまるか」


 ソーホーは売り言葉に買い言葉で応えた。その刹那、上の方からスササササ――と何か複数のものが動くような音が聞こえた。ソーホーはギョッとして上を見た。すると、壁の上や建物の屋根に、複数の魔物が立ち、こちらをじっと見据えていた。


「――げげっ」


「ヤバいね、これ」


 ふたりはたじろいだ。そこへ、ドランブイがソーホーの服の袖をグイッと引っ張った。


「お前さんら、こっちへ来い。早く!」


 ドランブイが走り出す。迷っている時間はなかった。トモエとソーホーは彼の後を走った。3人は細い路地に入り、しばらく走り続けた。何度目かの角を曲がったところで、ドランブイはそこの扉を開き、


「お前さんら、ここに入れ」

 と促した。3人は駆け込むように建物の中へと入った。


「……どうやら、うまくまいたようじゃ」


 扉を少し開けて外の様子をのぞいてから、ドランブイは云った。そんな彼を、ソーホーは訝しそうに横目で睨みつけた。


「フン、連中はきさまが呼んだんじゃないのか」


「めっそうもねえ」


「どうだか、怪しいもんだ。それとも、きさまが呼んだんじゃないという証拠でもあるのか」


「そこは信じてもらうしかねえな。へっへっへ――」


 疑られてもドランブイはへらへら笑ってみせるのだった。


「でも、どうして私たちを助けてくれたの?」


 トモエが訊いた。


「別にお前さんらを助けたかったわけじゃねえ。だが、お前さんらがあの魔物どもに捕まって、俺のことをしゃべったら、こっちまで危ねえんでな」


「何を云うか。きさまも魔物ではないか」


 ソーホーは腕組みしながら云った。


「ちげえねえ――。だが、奴らと俺じゃ、身分が違うんだよ」


 ドランブイはそう云いながら、ランプにふたたび火をつけた。魔物たちから逃げている時、風の勢いで火が消えてしまったのだ。


「身分って、あの魔物たちは自分より身分の低い者を襲うの?」


 トモエの質問に、ドランブイは首を横に振った。


「その逆だ。――このあたりはこの世界のことを詳しく話さんと分からねえだろうな」


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