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第二部・異世界への召喚編 (13_2)


 トモエは地面へと降り立つと、みんなのいる方へと戻っていった。


「ソーホー、鍵だよ」


「おお――。君のおかげだ。ありがとう」


 ソーホーも今回ばかりは、素直に嬉しさを表現した。


「ううん。私があの怪物を倒せたのは、あなたのおかげだよ。正直、あなたがあそこまでやれるとは、思ってもみなかった」


「たしかに、自分でも不思議だ。なぜだろう――」


「まだ気づかないか――?」


 ふいに、イエガーが口を挟んだ。彼は自らの剣を杖にして、ゆっくりと立ち上がった。


「もともとお前はここまでやれるんだ。考えてもみろ。俺とお前は幼いころから一緒にいることが多かった。一緒に遊びもしたし、学問も礼儀作法も一緒に学んできた。剣術だってそうだ。俺と同じくらいの技術はお前も持っているはずなんだ」


「そ、そうか――。だが、なぜ私はこれまで、その技量をふるうことができなかったのだろう」


 ソーホーは不思議そうに云った。フッ、とイエガーは笑ってみせた。


「それはお前が優しすぎるからだ。いつも余計なことまで考えてしまう。戦っていても、相手のことを思いやってしまうような馬鹿なんだよ、お前は。それがいつもお前のリズムを狂わせ、自分を臆病者とまで思わせていたんだ。――だが、よく覚えておけ。愛する者を守るためには、その優しさを捨てる勇気も必要だということを――」


「愛する者――」


「お前がディタのことを好きだということは、とうの昔から分かっていたさ。お前だけじゃない。ディタも馬鹿で優しいお前のことを愛しているともな。マリブ大臣はディタを助けたあかつきには、俺をディタの伴侶にするつもりだったらしいが――」


 イエガーはマリブの方を振り返った。


「聞いての通りです、マリブ大臣。ディタ姫の救出は、ここからはソーホーに任せます」


「し、しかし、イエガー王子……、いいのですか?」


 慌てた様子でマリブは云った。


「――いいんです。どのみち、ディタ姫を助けても、自分は身を引くつもりでしたから。それに、今のソーホーの戦いを見ていて、安心して姫を任せられると思ったんです」


「イエガー……」


 ソーホーをイエガーはふたたび振り返った。


「森をさ迷っている時、アマレットに云われたのだ。軍勢で魔界王国に乗りこめば、きっと戦争になる。結果、罪もない多くの人々が犠牲になるであろう、とな。それに、レイシー王国には、スミノフの手下たちがうじゃうじゃしている。パライソ王を、そしてレイシー王国の人々を守るためにも、俺たちはレイシー王国に戻らなければならない」


「そうか……。ありがとう、イエガー」


 ソーホーは殆ど泣きそうな顔で云った。


「そんな顔するな。俺はディタの幸せそうな笑顔が見られれば、それでいいんだ――」


 イエガーはそう云い残し、兵士たちをつれて去っていった。


「では、今度はおぬしたちの番じゃ」


 アマレットは云って、空中に向かい杖をさした。すると、その場所に扉が浮かび上がってきた。


「この扉を通れば、魔界王国に行けるぞよ」


 アマレットは目でトモエを促した。トモエは頷いて、扉の鍵穴に鍵を差し込む。鍵をひねると、ガチャリという音がして、扉はひとりでに開いた。


「ここからは誰の助けもない。おぬしたちふたりでディタ姫を救い出すのじゃ。よいな?」


「のぞむところだ」


 アマレットの言葉に、ソーホーは意気揚々と応えた。


「その意気じゃ。さあ、ふたりとも行ってまいれ」


「うん。いろいろありがとうございました」


 トモエはそう云って、扉の中へと入っていった。ソーホーもそれに続いた。


 そして扉は閉まり、そこにはアマレットだけが残された。


「――さて、魔界王国には苦難がいっぱいじゃ。おぬしたちは無事、ディタ姫のところへとたどり着けるかの?」


 ほっほっほっほ――、とアマレットは意味深な笑い声をあげる。その声を聞くことなく、トモエとソーホーは、地下世界へと続く階段を下りてゆくのだった。


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