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第二部・異世界への召喚編 (8)


 8



 トモエとソーホーは王宮を出て、まっすぐにディサローノの森へと向かっていた。


 はずだった――。


「迷った……」


 地図を見ながら、ソーホーが呟いた。


「今、どこにいるの?」


 うんざりした様子でトモエは訊いた。


「それが分からないから苦労しているのであろうが」


「――ていうかさ、もっと詳細な地図はなかったの? そんな世界地図みたいなのいくら眺めたって、道順なんて分かるわけないでしょ!?」


 ソーホーは地図から目を離し、トモエを睨んだ。


「王子である私のやることに、いちいちケチをつけるな」


「でも、現実問題、こうやって迷い続けてるのはよくないよ。このあたりにも、スミノフの手下がいるかもしれないでしょ。襲われたらどうするの。イエガーが云ってたじゃない、あなたは武術も剣術もからっきしだって。奴らと戦う力はあるの?」


「そなたはいちいち無礼であるぞ。私だって剣術に覚えはある。そりゃ、イエガーにはほんの少し劣るかもしれんが――」


 ソーホーはまっすぐに前方を指さした。


「さあ、無駄話はやめて、先を急ごう。方角はこっちで合っているはずなのだ。このまま歩いていけば、きっと森にたどり着ける」


(心配だなあ――)


 トモエが思ったその時――、



 ――仕方ないのぅ。手を貸してやろうか?――



 ふいに、マオの声がした。


 突然、トモエの前に、カピバラとフラミンゴの姿となったマオとイチコが現れた。


「うわあああああ!」


 その途端、ソーホーは叫び出し、その場で腰を抜かしてしりもちをついた。


「で、出たな、化け物!!」


 ソーホーは腰の剣を抜きかまえたが、完全なへっぴり腰である。


「心配しなくていいよ。この子たちは私の友だちだから」


「へ、友だち?」


 トモエの言葉に、ソーホーは間の抜けた声で返した。


「トモエ、わらわたちがそなたたちをディサローノの森へと案内してやろうではないか。おい、イチコよ――」


「はい」


 イチコが応えた。


「そなた、ひとっ飛びして、ディサローノの森の場所を確かめて来るのじゃ」


「はいっ」


 イチコは大きな羽を開き、それをはばたかせて空へと飛んでいった。


「さあ、あとはイチコの帰りを待つだけじゃ。トモエたち、しばらく休むがよかろう」


「そうだね。そこに岩場があるから、そこに座ろう」


 トモエとマオはソーホーの立つ方向の延長線上にある、岩場へと向かって歩きだした。ソーホーは、マオが自分の方へと近づいてきたので、ビクンと身体をこわばらせた。


「なんじゃ、臆病な奴じゃのう。そんなに怖がることもなかろうに。 ――ほれ、ほれ」


 マオはソーホーに身体をすりよせた。ソーホーは、顔は青ざめ、小刻みに震えてさえいる。


「まったく、そんなことで、本当に姫を助け出せるのか?」


 マオは呆れたように云った。ソーホーはマオがよっぽど怖いのか、虚勢を張ることさえできなくなっていた。


「マオ、あんまりいじめないの」


 トモエがマオをたしなめた。マオは素直にトモエに従い、ソーホーから離れて岩場に腰をおろした彼女の方へと歩いていった。


「ソーホー、こっちで一緒に休もう?」


 トモエの言葉に、ソーホーはためらいながらもこくん、とうなずいた。けれど、彼はトモエたちの休む岩場ではなく、少し離れた別の岩場に腰をおろした。


「――それにしても、わらわが云うのも何じゃが、そなたもあの王子に対して結構きつく接しているのではないか?」


 マオは云った。


「まあ、分かってるんだけどさ――」


 トモエは天を仰ぎながら答えた。


「自然とああなっちゃうんだよね。ソーホーの大人げないところとか、変に意地っ張りなところとか、何となく星夜に似てる気がするんだよ」


「惚れた男に似ておるから、親近感が湧くというわけか。しかし、いつの時代も、どこの世界も、男というのは幼いものじゃな。わらわも、人間として生きておった頃に、経験があるわ」


 マオは生前、イッキという男性と恋仲にあった。


「でも、イッキさんは、けっこう落ち着いた大人の人、ってイメージだったけど」


「表向きはな。しかし、深く付き合ってみると、やっぱり思考が短絡的で子供っぽかったのは否めないな」


「ふうん――。ところで、イッキさんは今どうなってるの?」


「あやつの魂は、もうはるか昔に天に昇っていったぞ。そなたが親しみやすい表現をするなら、“成仏した”ということじゃ」


「そっか――。よかったね」


 トモエは云った。マオとイッキの恋は、壮絶な悲恋ともいうべきもので、ふたりの死によって結末を迎えた。不幸な死を迎えた彼だが、せめて魂だけでも浮かばれたというのなら、本当によかったとトモエは思うのだった。


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