第二部・異世界への召喚編 (6_1)
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トモエがイエガーをひと目見て抱いた印象は、“いけ好かない奴”だった。顔つきは整っていてもてそうな感じだが、好戦的で常に自分が一番でなくては気がすまないという、高慢ちきなところがありありと滲み出ていた。
そんな彼に導かれ、トモエは王宮の長く続く廊下を歩いていった。
ふと、前方に人のうしろ姿を発見した。青いマントをなびかせながら歩いている。
「ソーホー!」
イエガーが叫ぶと、それはこちらを振り返った。背格好や顔立ちが整っている点はイエガーと同じだが、彼とは対照的に中性的で優しそうな顔立ちをしている。イエガー同様、ソーホーという名にも聞き覚えがあった。あれがディタの好きな人か、とトモエは思った。
「イエガー! 君はなぜここに!?」
ソーホーは驚いたふうで訊いた。
「決まってるだろ。ディタ姫を助けに行くんだ。それより、お前はどうした。まさか俺と同じだというんじゃないだろうな」
「何を云うか。私だってディタ姫を救うために駆けつけたんだ」
「は? お前がか」
イエガーは呆れたように笑った。
「お前なんかにできるわけがないだろ。第一、お前は武術も剣術もからっきしじゃないか。きっとバックに何百人、いや何千人もの兵士をつけたんだろうな」
「来たのは私ひとりだ!」
ソーホーは高らかに云ってのけた。
「……な!?」
アハハハハ、とイエガーは笑った。
「お前そりゃ、無謀を通り越してバカだぜ! 俺だってお供の兵士を何十人かはつけているってのによォ!!」
「笑うなら笑え。私はひとりでもディタ姫を助けてみせる」
「なんだと。では、どちらが先に姫を助けるか、勝負するか」
「のぞむところだ」
ふたりはいがみ合ったのち、横に並び肩をいからせて歩きだした。トモエも仕方なくそれについてゆく。この場で立ち止まっていても、どうしようもない。
3人は王宮の奥にある巨大な扉の前で立ち止まった。
「失礼つかまつります! バーナー王国のイエガーです」
「オレジン王国のソーホーです」
ふたりが叫ぶと、扉がギギギ……と軋みながらゆっくりと開いていった。扉の向こうにあるのは、広大で煌びやかな部屋だった。伸びたレッドカーペットの両端には兵隊たちがずらりと並び、奥には豪華な衣装を着、冠をかぶった男女が座っている。どうやら、あれが国王とその女王らしい。
イエガーとソーホーはカーペットの上を歩いてゆく。もちろん、トモエもそれに続いた。ふたりは国王と女王の前でひざまずいた。
「おお、来てくださいましたか、イエガー王子。それに、ソーホー王子まで」
国王の隣に立っていた丸顔でやや恰幅いい男が云った。
「はっ、マリブ大臣。ディタ姫に大変な事態が起こったと聞き、とりいそぎ参上いたしました」
「私もです」
ふたりは口々に云った。マリブというらしいその男は、嬉しそうに微笑んだ。
「それはありがたい」
「隣国の一大事を見過ごすわけにはいきません。現に、王宮に入る前に少しこの国の様子を見てきましたが、魔界王国の手下がうじゃうじゃしておりました。先ほども3匹ほど倒してきたところです」
イエガーの言葉に、マリブはますます満面の笑みとなった。
「頼もしい限りです。バーナー王国に助けてほしいと手紙を出しましたが、イエガー王子がじきじきに来てくださるとは思いもしませんでしたぞ」
「……えっ?」
ソーホーは間の抜けた声を出した。
「私の国にはそんな国書は届いていない。ということは、マリブ大臣はわがオレジン王国には頼らず、バーナー王国にのみ助けを求めたのですか?」
マリブはソーホーに対して、少しばつの悪そうな顔になった。
「――まぁ、そういうことです。バーナー王国の軍事力はわれわれ3国の中でも群をぬいてすばらしい。しかも、イエガー王子は剣術がとてもすぐれているというお話だ。ソーホー王子、来てくれたのはありがたいのですが、今回は我々とイエガー王子で何とかできると思いますので」
「そんな……」
ソーホーは残念そうに呟いた。イエガーはフン、と笑みを浮かべ、
「残念だったな、ソーホー。お前はここで俺がディタ姫を連れて帰るのを、指をくわえて待っているがいいさ」
と勝ち誇ったように云った。




