第二部・異世界への召喚編 (5_1)
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緑の芝生に覆われた大地にトモエは立っていた。トモエはあたりを見回した。一方には森林や岩場があるかたわら、別な一方には向こうの方には町が見えた。さらに別の方角に目をやると、遠くに宮殿がそびえ建っている。どうやら、ここがレイシー王国のようだ。けれど、それを確認しようとディタの姿を探しても、すでに彼女は自分の眼前から消えていた。
ふと、トモエは魔法少女の姿に変身しているのに気づいた。
(あれ、いつの間に……?)
変身した記憶はなかった。しかも、変身を解こうとしても解けない。
――変身は解けんよ――
ふと声が自分の脳裏に響いた。なじみのある声だ。
「マオ……? あんた今どこにいるの」
――トモエの心の中じゃよ。そなたがホテルを出る前に、わらわはすでにそなたの中に入っていたのじゃ――
マオはそう答えてみせた。
「でも、何で?」
――サポート役じゃよ。そなたひとりでは、この世界で立ち回れないかもしれんからの――
マオの言葉にトモエは少しむっとした。
「馬鹿にしないでよ――」
――まあまあ、そう怒るな。初めて来る世界なのじゃから、仕方がないじゃろう――
「ふーん。マオはこの世界に来たことがあるんだね」
口をとがらせながらトモエは云う。しかし、それに対しマオは、
――いや、来たことはないが――
と、平然と返した。
――じゃが、神さまからこの世界について少しは聞いておるからの。手助けくらいできるじゃろう――
「まあいいや……。それはそうと――」
トモエは気持ちを切り替え、当初の疑問へと話を戻した。
「変身は解けないって、なぜ?」
――それは、異世界というものは、本来行き来できるものではないからじゃ。ある宇宙の物体は、また別次元の宇宙で存在することは不可能なのじゃ。だから、そなたは魔力によって、この世界で存在できるように保たれておるのじゃよ――
「てことは、この間にも魔力がずっと使われ続けているってこと?」
――その通りじゃ。まぁ、普通にしているときには魔力の消費量は微々たるものじゃから問題はない。だが、戦ったりするときには魔力をかなり消費するから、気をつけよ。枯渇すればそなたは存在自体ができなくなってしまうかもしれぬ。特に、“巫女モード”には極力ならん方がいい。あれは急激に体力や魔力を消耗するからの――
巫女モード。
浄化の力を極限まで高め、救済の力へと変化させた、トモエの第2形態である。
「分かった。あれにはならないようにする」
――けれどまあ、魔力の枯渇はそこまで心配することはないじゃろう。よっぽどでない限り、休息をとれば体力と同様に魔力も回復するからの。……それはそうとトモエ、感じておるか、この世界に感じる不穏な気配を――
マオは声をひそめて云った。「うん」とトモエは答えた。ぱっと見た感じではのどかな風景であるが、その空気はどこか殺伐としていた。マイナスのエネルギーがあたりに充満しているようだ。ふいに、そのマイナスエネルギーが、強くこちらに向けられているのを感じた。はっ、と見ると、岩場の上から奇妙な形相をした怪物が3体、トモエを睨みつけていた。




