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第二部・異世界への召喚編 (4_2)


「先ほどもお話したように、私はレイシー王国の王女です。レイシー王国は気候もよく、作物もよく実り、人々は笑って暮らし、争いごともない、そんな穏やかな国です。お隣には、バーナー王国とオレジン王国という国があり、互いに友好関係を築いてきました。それらの国には、イエガーとソーホーという私と同い年の王子がおり、私たちは幼いころから仲良しでした。そんな環境の中で、私は幸せに育ちました――」


 ディタは穏やかな微笑みを浮かべていた。まるで、自分が姫として育った国を誇らしく思っているようだった。しかし次には、ディタはそれとはうって変わって、険しい表情を浮かべた。


「しかし、そんな私たちを悲劇が襲います。実は私たちの生きる世界は、ふたつに分断されていて、私たちの住む国が存在する地上の世界と、地下の世界に分かれているのです。地上の世界は日差しが降り注ぎ、緑も多く、水も豊富な恵まれた地域です。一方で、地下の世界は真っ暗で殺伐とした世界なのです。そんな地下世界に、魔界王国という魔物たちの住む国がありました。その王・スミノフが恵まれた地上世界を手に入れたいと、レイシー王国へと侵攻してきたのです――」


「ふーん……。そのスミノフっていうのが、あなたを氷に閉じ込めた張本人ってわけ?」


 トモエは口を挟んだ。ディタは神妙な面持ちでこくりと頷いてみせる。


「そうです。スミノフ一派はとても強く、護衛を次々と倒しわが王宮に入り込んできました。それでこう云ったのです。『おとなしく国を明け渡せ。さもなくば酷い目に遭うぞ!』。もちろん、私のお父さまであるパライソは拒否しました。『お前たちのような野蛮な者に、国民の暮らしは任せられない』、と。すると、スミノフはたいそう怒って、私を魔界王国へとさらってしまったのです。そして、私を薄暗い牢に入れ、そのうえ魔力で氷漬けにしてしまいました……」


 ディタの顔が青ざめ、瞳孔が開いてゆくのが分かった。そこはよっぽど寂しく、恐ろしい思いをしたのだろうと思わせる。


「つまり、あなたを魔界王国から救い出してほしい、ということ?」


 トモエは尋ねた。


「もちろん、それもあります。でも、実はもうひとつ、あなたにぜひお願いしたいことがあるのです」


 しかし、ディタはそう応えてみせた。


「それは――?」


「地上世界では私を助け出そうとしてくれているに違いありません。もちろん我が国の軍もそうですが、特にオレジン王国のソーホー王子はおそらく、誰よりもその気持ちを強く持ってくれているでしょう」


 ソーホーの名を出したとたん、ディタの目が輝くのが分かった。トモエにはピンとくるものがあった。おそらく、ディタはソーホーのことを愛しているのだ。トモエがそのことを察知したのは、何より彼女自身もまた、恋するひとりの少女であったというのが大きい。


「そのソーホーって人のガードをしたらいいんだね?」


「はい、その通りです。魔界王国に行くには、大きな困難を乗り越えなくてはなりません。彼がその困難にやられずに、乗り越えられるよう、サポートしてほしいのです」


 トモエは仕事の内容をおおまかに察知した。ディタを救うこと、ソーホーのサポートをすること、スミノフ一派の野望を打ち砕くこと、この3つだ。ただ、疑問が残る点は、その役目がどうしてトモエなのかということだった。宇宙をまたぎ異世界へ赴かせてまで、神さまや“宇宙の意志の権化”が自分にその世界を救わせようとしているのか、その理由が釈然としない。


(まあ、それもおいおい分かるようになるか)


 そうトモエは思った。今はただ、目の前で困っている人を助けてあげたい、その気持ちの方が強い。


「分かった。やってみるよ」


 まかせて、とは云えなかった。これはトモエにとってもはじめての経験なのだ。


「ありがとう」


 それでも、ディタは穏やかに微笑んでみせた。


 やがて、飛んでいる宇宙の向こうに、小さな光がスパークするのが見えた。それは徐々に大きくなり、トモエを完全に覆いつくすぐらいの大きさになった。それは、光のゲートだった。それをくぐった直後、彼女の眼前に別な風景が浮かび上がってきた。


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