第二部・異世界への召喚編 (2)
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トモエらJ中学3年生の一行がそのテーマパークにやって来たのは、それより数時間前のことであった。
生徒たちはみんなはしゃいでいた。テーマパークでのさまざまな乗り物やアトラクションが楽しみで仕方がないのだ。トモエでさえ内心ウキウキしていた。実の母親が亡くなってから、遊園地に遊びに来ることなど一度もなかったのだ。
このテーマパークはヨーロッパの街並みや文化をコンセプトにしていた。入口の門がまえからすでにエキゾチックな様相を醸し出しており、いざ中に入れば、西洋風の大きな建物が立ち並ぶ。それらは、お土産屋だったり、飲食店だったり、アトラクション施設だったりするのだった。日本にいながら、外国にいるような気分にさせられるのだ。
生徒たちは、園内の乗り物やアトラクションはどれでも楽しめるようになっていた。あまりひとりで行動するのはよくないが、常識の範囲内で、班行動のくくりを緩めてもいいことにもなっていた。それは、ひとりひとりが楽しく過ごしてほしいという、先生側のはからいだった。
「すげー迫力!」
「楽しかったー!」
ジェットコースター降りた生徒たちは口々に云った。相当スリルがあったとみえ、みな興奮気味である。けれど、その中でトモエだけは釈然としない表情を浮かべていた。
「ドウシタノ? トモエ、楽シクなかッタ?」
隣を歩いていた高島アイラが訊いてきた。彼女もトモエと同様に、他の生徒たちと違ってケロッとした顔でいる。
「うん。あんまり迫力なかったっていうか。もっとすごい体験、日ごろからしてるし」
「ソウダヨネー」
アイラもぼやいてみせた。魔法少女として、命を賭けた戦いに身を投じている彼女たちにとって、遊園地のアトラクションなど、スリリングでも何でもないのだ。
トモエは出鼻をくじかれ、期待していた気持ちが急にしぼんでしまった。もちろん、遊園地のアトラクションはジェットコースターだけではない。けれど、ジェットコースターは遊園地の目玉といえる存在であるらしい。それが楽しめないと分かった今、自分は何を楽しめばいいんだろう――。期待が大きかった分、がっかりする気持ちも大きかった。
それに比べて、アイラはとても楽しそうに見えた。アトラクションがつまらなくても、彼女は雰囲気そのものを楽しんでいるようだった。トモエはそんな彼女の純真さをとても羨ましく思った。
(がっかりしててもしょうがない。私もアイラみたいに、もっと純粋にこの場を楽しんでみよう。仕事の依頼が来るまでは――)
トモエはそう自分に云い聞かせた。




