第二部・異世界への召喚編 (1)
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――助けて――
という声に誘われ、彼女が目にしたのは、氷づけになった少女の姿だった。
少女をひと目見て、トモエが抱いた感想は「美しい」だった。目鼻の整った顔立ちをして、すらっとした身の丈には、豪華で清潔なドレスをまとっていた。高貴な家の出なのだろうと思わせる。そして、氷の冷たげな雰囲気が、その妖艶さをいちだんと増していた。容姿が整っているという意味では、高島アイラも相当なものだが、総合的に見てこちらの方が断然勝っていると思えた。それほどまでに、息をのむほどに高潔で、この世のものとは思えないくらい、美しい。
ただ、その瞳の奥には、どこか悲しげな光を宿していた。助けを求めるような、思いつめた眼差しを、じっとトモエへと向けていた。
「呼びかけてきたのはあなたなの?」
トモエは少女に問いかけた。
――あなたには、私の声が聞こえたのですか?――
少女の声が、トモエの脳裏に響く。氷に閉じ込められた少女はぴくりとも動かないが、その目の色がさっと変わったのが分かった。
「うん。聞こえたよ」
と、トモエは答えた。
――良かった……。どうか助けてください! お願いします!!――
少女は切実な声で訴えた。
「ちょ、ちょっと待って。いきなり云われても、よく意味が分かんない。まず、あなたが誰なのか教えてくれないかな」
トモエがそう訊くと、
――私の名前はディタ。レイシー王国の姫です――
そう少女は答えた。
(レイシー王国? そんな国、聞いたことない)
トモエは思った。その時、はっと気づいた。ひょっとしたら、これが合図なのではないかと。レイシー王国などという国が、この世には存在しないことは明らかだ。となると、これは異世界に存在する国なのかもしれない。つまり、広域魔法少女としての初仕事がまさに今、舞い込んできたということなのだろう。
「私の名前は鶴洲トモエ。あなたの力になれるかもしれない。――詳しい話を聞かせてくれないかな」
トモエはディタと名乗る少女に向かって、そう云った――。




