第一部・神さまは気まぐれ!?編 (10)
10
大浴場はホテルの地下にあった。
トモエは湯ぶねにつかりながら、今日一日のことを思い返していた。本当に、色んなことがあった――。
「トモエ」
ぐるりと首をひねって、声の方を振り返ると、アイラが立っていた。シャワーで身体や髪を洗い終えたところらしい。彼女は浴槽に入り、トモエの隣に座った。
「――アレガ、噂のマオとイチコだったノネ。もしかして、トモエノ空想ノ産物ジャナイかと思ってたケド、実在シタんダネ」
「空想なわけないでしょ」
トモエは云った。マオやイチコのことは、アイラやまどか、愛稀といった、仲間にはさわりくらい話していたのだが、これまで彼女たちはその存在を確かめようがなかった。今回、それが初めて実現したことになる。
アイラも由梨も、カピバラとフラミンゴに化けたマオとイチコを見て、最初驚きはしたものの、気味悪がることはなく、意外にすんなり受け入れてくれたようだった。「かわいい~」と華やかな声をあげ、マオたちとすぐに親しくなった。もう学校に行けなくなることさえ覚悟していたトモエにとっては嬉しい誤算だった。
「でも、このことは誰にも云わないでよね」
「モチロン。心配シナイデ」
アイラは胸を張ってみせた。このことは由梨にも云わなきゃと、トモエは彼女を探した。すると、由梨は別の班のクラスメイトと談笑しているところだった。トモエは一瞬不安になったが、さすがにあのことは話さないだろうと思い直した。後で釘をさす必要はあるだろうが、今のところは彼女を信じるしかない。
トモエは気持ちを切り替え、風呂の中で大きく伸びをした。何だか開放的な気分になり、心も落ち着いてくる。
(それにしても、戦いの依頼はいつ来るんだろう――)
トモエは、昼間の神さまの言伝を今さらながらに思い出した。それによると、この修学旅行の間に何かしらの合図があるらしい。旅行の日程は、今日を含めて3日ある。今日はもう終わりつつあるし、3日目はおみやげを買った後は帰るだけだ。つまり、依頼があるのは、2日目である可能性が高い。翌日は、このホテルの近くにある巨大テーマパークで一日遊び放題、というスケジュールになっていた。
(……となると、テーマパーク内で依頼があるのかな)
トモエはそう予想してみた。もちろん、そうであるとは限らない。依頼の合図があるのは、ホテルの中かも分からないし、帰りのバスの中かもしれない。けれど、トモエはとりあえずそういう腹づもりでいることにした。楽しく遊んでいる際に急に仕事が来ても、すぐに気持ちを切り替えられるようにしなきゃと、彼女は思っていた。




