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第一部・神さまは気まぐれ!?編 (9-2)


 夕食は、下の階にあるレストランで行われた。


 生徒ひとりにつきひとつあてがわれた重箱の中には、ホテルのシェフが腕によりをかけて作ったと思わせるさまざまな料理が詰め込まれており、この地方の名産である海産物を使ったものもあった。


 美味しい夕食をいただいた後は入浴時間となるが、大人数が一度に浴場へと出かけるわけにはいかないので、班ごとに入浴できる時間帯が限られていた。それ以外の時間は自由時間となる。トモエたちの班では、入浴は夕食後すぐと定められていたので、食事がすむと着替えを取りにすぐに部屋へと戻った。


 部屋のクローゼットには、すでに人数分のバスタオルと洗顔タオルが用意されていた。トモエはタオルを手に取り、何気に部屋の奥をのぞいた。自分たちが戻ってくるまで誰もいなかったはずの室内に、どういうわけか気配を感じた。


(誰かいる……?)


 トモエはそう感じた。気配に得体の知れない薄気味悪さを感じた。おのずと彼女の注目は、その気配の方へと引き込まれていった。その時、ベッドの陰から何かがひょこっと動いた。トモエは驚いたが、何とか声をあげるのをおさえた。ベッドの陰にやはり何かがいる。彼女はその正体を突き止めようと、その方へより意識を集中させた。


 ふたたびベッドの陰からそれが動き、トモエはその頭部をはっきりと確認した。


「……げっ!」


 トモエは思わず声をあげた。その顔には見覚えがある。間違いなく、カピバラの姿に変身したマオであった。


「どうしたの?」


 由梨が訊いてきた。


「え? いや、何でもないの! ――それはそうと、ふたりとも先にお風呂入ってきてよ。私、待ってるから」


 慌てた様子のトモエ。


「ナニ云っテルノ? 大浴場ニハ、ミンナで行くんデショ?」


「あ、ああ――。いや、私、今日はいいや。部屋のシャワー使うから」


 室内にはユニットバスが備えつけられていた。


「そう? じゃあ、私とアイラちゃんだけで行ってくるよ?」


 由梨が云った。


「うん。ふたりで行ってきたらいいよ。ほら、早く行かないと、時間なくなっちゃう――」


 不思議そうに首をかしげるアイラと由梨を、トモエは半ば強引に部屋から出した。


「はぁ~……」


 ドアを閉め、大きくため息をついた。そして、くるりと踵を返し、ベッドの方を振り返る。


「ちょっと、何やってんの!?」


 マオはひょいっとトモエの方を見た。


「おお、トモエ。夕げは美味かったか?」


 呑気な様子でマオは云った。


「ついてこないでって云ったでしょ!」


「ずっと檻の中におるのは暇じゃったからの」


「イチコもいるの?」


 すると、鮮やかな朱色をした鳥がひらりとベッドの上に飛び乗った。


「やっぱり――」


 トモエは呟いた。案の定、マオと同じところに潜んでいたのだ。


「まーまー、トモエ。あんまり怒らないで」


 イチコは嗜めるように云う。


「誰のせいだと思ってんの!? ホテルの中まで入ってきて。学校の誰かにばれたらどうすんの――」


 その時、背後でガチャリ、という音がした。直後にキイと軋むような音もする。トモエはギクッとして、後ろを振り返った。アイラと由梨が部屋に戻ってきたのだ。


(しまった、ルームキー由梨に持たせたままだった――)


「もぅ、トモエが早く行けって急かすもんだから、替えの下着持っていくの忘れちゃったじゃない――」


 そう云いながら、ぱっと前を見た由梨は、ぎょっとした顔になった。すぐ後ろについていたアイラも同じ反応をする。


 見られた。もう終わりだ――。トモエは頭を抱えた。


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