第一部・神さまは気まぐれ!?編 (9-1)
9
ふたたびバスに揺られ、トモエたちはホテルに到着した。
ロビーで先生たちが受付を済ませた後、生徒たちはエレベーターに乗り、各々の所定の部屋まで向かう。
トモエたちの泊まる部屋の番号は、531であった。当然、階は5階である。エレベーターには12階までのボタンがあったので、真ん中よりも少し下ということであろう。
ルームキーでドアの鍵を開け、部屋に入った。
「はぁ~――」
トモエは部屋に入るや否や、大きく息を吐き、ベッドにどん、と腰を下ろした。
「トモエ、相当疲れてるみたい」
由梨が笑って云った。まさにその通りだった。体力的な部分ももちろんだが、何より精神的にどっと来ていた。
「晩ゴハンの時間ハ、何時ダッケ?」
アイラの質問に由梨が答える。
「7時半って云ってたよ。もうすぐだから、部屋でちょっとゆっくりしたらレストランに向かおう」
「ジャア、ソノ前に着替えてクルネ」
アイラがそう云ってバッグの中から取り出したのは、薄手で濃紺のワンピースであった。何となく、どこかで見たような心地がする。
「……ひょっとして、それスクール水着じゃない?」
おそるおそるトモエは訊いた。ひょっとして、どころではなかった。その生地の質感、胸元につけられたゼッケン。スクール水着以外の何物でもない。
「ソウ。“スク水”ダヨ」
案の定、アイラは肯定した。
「何でそんなの着るの?」
「昼はメイド服、夜はスク水。コレこそ萌えデショ?」
「だめー! それ着てホテル内をうろつかないで。せめて、寝る時間まで別の格好でいて!」
メイド服であろうが、スクール水着よりはまだましだ、とトモエは思う。
「エー……」
アイラは不満そうな声をあげ、ちらりと由梨の方をうかがった。
「うん。私も、さすがにスクール水着はやりすぎだと思うかな」
由梨にもそう云われ、アイラはしぶしぶ水着をバッグの中に戻した。
トモエはほっ、と胸を撫で下ろした。アイラの感覚にはついていけない。萌えの定義などよくは知らないが、仮に本当にそれが萌えの真髄なのだとしたら、トモエには到底理解できるものではなかった。




