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第一部・神さまは気まぐれ!?編 (7-3)


「まあ、この話はそれで終わりなんじゃが。それにしても――」


 ふいにマオは話題を換えた。


「この神殿から見ておったが、そなたたちお参りに対する態度がむちゃくちゃじゃの」


「え……?」


 トモエは驚いた。急にそんなことを云われるとは、予想もしていなかった。


「まず、参道の歩き方じゃ。好き勝手に歩きおってからに。道の真ん中は神さまがお通りになるから、歩いてはならん。さらには、この正宮にお参りをする際、祈願をする者がどれほど多かったことか」


「え、お願いってしちゃダメだったの?」


 トモエは、自分も神前で祈願をしたことを思い出した。手を合わせた時、初詣のイメージから条件反射的に願いごとが心の中に浮かんでしまったのだ。その願いとは、云わずもがな、星夜に関することであった。


「当たり前じゃろう。この神宮は、この国の礎を築いた神さまに感謝と敬意の意を込めて参るのじゃ。己の勝手な煩悩のために参るのではない。もしどうしても祈願したいのなら、参るべきはこの正宮ではなく別の場所じゃ。それなのにそなたたちときたら、やれ恋愛成就じゃ、合格祈願じゃ、億万長者になりたいと願う者もおったわ。今の世の人間は欲深いものじゃの。聞いていてゲップが出そうじゃったわい。――ま、どのみち神さまは不在なのじゃから、そなたたちの願いごとはすべて無効じゃが」


 マオはやや冷ややかな口調で云った。トモエは熱にうかされたような心地になった。自分たちが密かに抱く願いを、ことごとくマオに聞かれていたのだ。心の内を探られてしまったような気分になる。


「――てか、叶えられないにもかかわらず、願いごとの中身は全部聞いていたの? 私の願いも?」


「そうじゃよ?」


 だから何だ、と云いたげにマオは返した。


「悪趣味!」


 トモエは大声をあげた。マオは口をとがらせた。


「なーにが悪趣味じゃ。聞かれたくないのなら、願わなければよかろう。それに、わらわはそなたの心の中にずっと住んでおったのじゃよ。そなたの願いなど、聞く間もなくすでに知っておったわ」


「で、でも――、だからってあえてここで云うことないじゃない!」


 トモエはもはや、何に対して怒っているのかも分からなくなってしまった。ただ、気恥しさでいっぱいで、とにかく感情的にならずにはいられなかった。マオはマオで、落ち着いた様子ではあるけれども、ムキになっているのは間違いないようだった。


「まあまあ、ふたりとも」

 と、イチコがそんなふたりをたしなめた。


「ごめんね。でも、マオさまも私も、いつだってトモエのことを大切に思っているよ。それだけは分かって」


「そりゃそうじゃろう。そんなこと、云わずとも分かる話じゃろうが」


「マオさまは黙って!」


 イチコは語気を強めた。マオがこれ以上余計なことを云えば、トモエはより気分を害し、事態はよりややこしくなると思えた。そんなイチコに対し、マオは不満げにツンと顔を背けてみせる。


「そりゃ――分かってるけどさ……」


 トモエはぽつりと云った。


「でしょ。私たち、トモエが困ったらきっと力になるから。ね?」


 トモエは無言で頷いた。


「――ま、そろそろ戻った方がよさそうじゃな。学校のみんなが心配するじゃろう」


 マオが云った。どうやら、もう気持ちは治まったらしい。


「そうだね。じゃあ、マオにイチコ、またね」


 トモエも機嫌を直したらしく、ふたりに手を振った。


 ふたたび、トモエの眼前は真っ白い光に包まれた――。




 視界が開けると、目の前には仁王立ちした担任の市宮の姿があった。


「鶴洲、お前何をやってたんだ!?」


「……へ?」


「『へ?』じゃないだろう。金子や高島からお前を見失ったと聞いて探しに来たが、お前、勝手に立ち入り禁止の場所に入り込んでいたんだな」


 トモエはあたりを見回した。彼女が立っていたのは、神殿に向かう際に通った小道の入り口だった。


「ひとりで勝手な行動を取るな。あと、立ち入り禁止の区域には入るな。ルールはちゃんと守れ! 分かったな!」


「すいませんでした……」


 私、悪くないのに――と思いながらも、トモエは謝らざるを得なかった。

「分かればいいんだ。さあ、戻ろう。金子と高島がお前のことを心配しているぞ」


 市宮に促され、トモエは階段を降り、正宮を後にした。


(それにしても――)


 歩きながらトモエは思う。


(これだけの参拝客がお参りをしてるのに、神さまはいないんだな)


 マオの話によれば、神さまも色々と忙しいようだ。つまり、留守にしているのは今日だけというわけじゃないのだろう。つまり、留守中に参拝した人たちの気持ちは、神さまには届いてないということだ。それに、トモエに対しての手紙だって、真面目に書いたとは到底思えない。


 神さまって意外といい加減なんだな――、とトモエは思った。


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