×Episode:−:原罪
***
異界より乙女舞い降りき
其は虹色の唄の継承者
曙光の翼もつ雲雀の娘
朱き血の民に約束の刻を告げるもの也
***
【Episode:−:原罪】
『――…何を、望むの』
「故郷を」
『なぜ、望むの』
「あれは我々の土地だ。父祖の代より受け継ぎ、土を耕し、他を侵すことなく侵されることなく、豊かな営みを守ってきた。
それを不当に奪われたのだ。何の落ち度もない同胞たちを、無惨に殺された。
なぜ許せる。あの、鉄と炎の侵略者たちを」
『何を、望むの』
「我らの土地から侵略者を駆逐する」
『何を、望むの』
「故郷への帰還を」
*
『……叶えましょう。
けれど憶えておきなさい。
被害者であることを盾にできるのは、真実無実の弱者だけ。報復のために刃を手にするというのなら、その肩書きは捨てなさい。
ヒトという概念において、他者を害することは例外なく罪悪なの。罪は必ず罰に追われるもの。追いつかれるか否かは別として。
そのときになって、罰を逃れるためにあなたが被害者を名乗るような無様を晒したら、私はあなたの罪のすべてを取り上げます。
その覚悟がありますか』
「無論」
『決して忘れてはなりません。私の手を取るのなら、あなたは加害者であり咎人です』
「覚悟の上だ。
さぁ、力を。我らの故郷を侵略者たちから解放するための力を!」
『――…』
娘は目を伏せた。
『……私に名前を与えなさい。私の存在を、この世界に示しなさい。それで契約は成されます』
男は娘に歩み寄った。
「……名前」
『そう』
「名前は」
男は見た。その娘の姿を。
美と、清廉と、生命と――…、……そのすべての具現のような娘を。
「……ヴァナディース」
男は一言、そう言った。
「お前の名はヴァナディースだ」
『……ヴァナディース』
「そうだ」
『……憶えておきなさい。
私の名はヴァナディース。あなたの罪の名前は、ヴァナディース。
いま、この瞬間から始まったのは、終わりなき罪業の道です。決してそれを忘れてはなりません。
……ヤヴンハール』
***
――…大陸暦125年、ウィルカナス連合国の東部部族がアドニス山脈を越えて大陸中央地域を侵略。原住民は東のナスターシャ砂漠まで避難したが、侵略の手は留まることはなかった。
原住民のほぼ半数は新天地を求め、砂漠を越えてさらに東へ向かった。
残りの半数は、侵略者に対抗すべく解放軍を旗揚げした。
盟主はヴァナディースという名の、ひとりの少女。
その軍勢は5年を懸けて全領土を奪還。同年、リーヴダリル帝国が建国された。
初代皇帝は、ヤヴンハールという名のひとりの男。
***
咎人の名を掲げし民よ
血で血を穢し
血で血を清めよ
悔いるな
しかし改めよ
汝らの罪を贖うものは
朱き報復の他にない
***