巡
俺 エリク・ラングナーの朝は早い。
といっても、今日が特別な日であるからで、実際はかなり朝に弱いのだ。
俺は布団からでると、カレンダーの8月9日に×印をつける。
今日は8月9日。記念すべき初陣の日だ。
俺は、クローゼットから戦闘服を取り出すとさっさと身に付けていく。
と、部屋の扉から女性の声が聞こえた。
「エリク? なにやってるの?作戦会議の時間よ?」
俺はおもむろに扉を開けると、
「悪いな、ちょっと考え事をしていたんだ」
サラは謝ることはないわ、と優しく微笑む。
「遅れるとゴルドン教官が怖いし早くいきましょ」
ああ、と俺は美しい婚約者の背中の追ってあるきだした。
☆
「伝令! 後方から悪魔の軍勢が進行中!
後衛右翼が壊滅! 隊列が破られました!」
それは突然で、あまりにも非常だった。
俺の思考が止まる。
所々から嘘だ!という声があがるが、闇にひかる無数の赤い光が現実だと告げる。
気がつけば俺は隣の兵士の羽をひったくって飛行を開始していた。
左腕を失った。
無我夢中で夜の樹海を疾走する。
そして、
後衛右翼の仮拠点へついた。
そこは凄惨とよぶべき他はなかった。
死体、死体の山。
俺はなぜか痛む頭を抑え、重い体にむちうってあるきだす。
「あ、ああ?」
俺の目がサラをとらえる。
ただし彼女の下半身はすでに失われている。
ボト。
目の前に血まみれの足が落ちてくる。
これはーーーーーーサラの?
「うおおおええええええええ」
吐き気と頭痛が俺をおそう。
なんだよこれ! なんだよこれ!
俺の頭に眼前の光景とまったく同じものがフラッシュバックする。
なんだよこれ!
死体の山。
下半身のないサラ。
落ちてくる足。
そして。
ーーーーーー俺の腹を貫く蜘蛛。
俺は。
ーーーーーーこの光景を知っている......?
上を見上げれば、巨大な蜘蛛がその鋭い前足を振りかぶっている。
最後のパズルピースがピッタリとはまるように。
俺の中の映像と、前の光景がシンクロした。
なんだ.........これ.....?
ズシャアアア。
俺の腹を蜘蛛の前足が貫いた。
8月9日。
エリク・ラングナーは二度目の死を迎えたのである。
巡