どうやらログインできたらしい
俺が目を開くと、そこには先ほどまでの白い空間は無く、自然と共存したといった言葉がふさわしい町並みが広がっていた。そして、俺は黒と紫を基調とした装いへと様変わりしていた。さっき言ってた黒と紫はこれか。…何気にセンスいいな。多分、ここがはじまるのまちとかいうところなんだろう。なにすればいいかわかんねぇし、まちの人に声掛けまくるか。
そんなことを俺が思っていると、手近なところに農家のおじさんらしき人がいた。
「あの、すみません」
「なんだぁ!? ボウズ、俺の畑から野菜でも盗みに来たのか!?」
「な! …違うに決まってるだろ? なんで俺このまちに入ってすぐに、わざわざ盗人になるんだよ」
「あ…なんだボウズ今までのヤツとは違うみたいだな…」
「今までのヤツ?」
「いや、こっちの話だ」
俺より前にプレイしてた人たちのことか? それにしては、良い感情を持ってないような言い方だな…。 ってか、この人NPCなはずなのに会話できてる…あれ? …まぁ、こまかいことはきにしてもしょうがねぇな。
「最近このまちでは、恥ずかしいことながら畑を荒らして作物を奪う盗人や家探しする盗人が出てるんでな。 どうも過敏になってんだ、わりぃなボウズ」
「そりゃ大変だな……。 あ、俺で良かったら何か手伝うぜ?」
「手伝いだぁ!? てめぇ何考えてんだ、善良そうな顔してやっぱり俺の畑を荒らすんじゃ…」
「どんだけ疑心暗鬼になってんだよ! そうじゃなくて、手伝いのかわりに、このまちとかの話をして欲しいんだ。 交換条件ならおっさんも安心できるだろ?」
「そういうことか! なかなか見込みのあるボウズじゃねぇか! よし、俺の家に案内するから、ついて来てくれ」
「おっさんの家? 家での手伝いってことか?」
「いや、そうじゃねぇが家でちと用があるんだ」
「なるほど…ほんじゃ、道案内頼むわ」
「まあ、ほぼ一本道だからな。 どれが俺の家かを教えるだけになるだろうが」
そのまま畑のそばにあった道を進んでいくと、他の家と変わらない建物の前で、おっさんが止まった。その建物の扉をおっさんが優しく叩いた。おっさんが優しく叩くなんて…予想外だ。
「ディアナ、開けてくれ」
「合言葉をどうぞ」
「太陽は沈めど、月は沈まず、月はいつも汝を見守る」
「…ちょっと待ってね」
中で動いている気配がしてから、扉が開いた。中からは映画女優かと言わんばかりの素晴らしいプロポーションで、長い金髪を緩く結んでいる女性が現れた。お、おっさんこの女性とどういう関係なんだ…? 夫婦とか言われたら、もれなく全俺が嘆くぞ。
「おかえりなさい。…あら、そちらの方は?」
「こいつは…やべ、名前聞いてねぇな。お前は何て言うんだ? 俺はアポロ。こっちはディアナだ」
「俺はセイカです」
「セイカさん? はじめまして」
「あ、こちらこそはじめまして」
「おい、お前、俺とディアナと態度違わねぇか?」
「当然の態度というヤツですよ」
「あら、嬉しいこと言ってくれるじゃない。 …それにしても、セイカなんて聞いたことのない名前ね」
「そりゃ、ディアナさんとはついさっき会いましたし…」
「いや、そうじゃねぇんだよ。 ディアナ、コイツは多分ジパングから来たヤツだ」
「ジパングから!? どうりで名称図鑑で見たことない名前だと思ったわ」
「名称図鑑?」
初めて聞く単語だ。取説にも載ってなかったし、今はチュートリアルで説明中ってとこか?
「この国に住んでいる人はみんな名称図鑑から名前をとってつけられるの。名前をつけるときに、国の名称管理部門に申請すると、名称図鑑の大元になってる本に、その名前の横に使用中って書き込むの。そうすると、他にも存在する名称図鑑の方にも、使用中って文字が現れるから、同じ名前を持つ人はいないの」
「なるほど…」
「名称図鑑を知らないってこたぁ、やっぱそうみてぇだな」
「ちょっと、セイカくん、悪いんだけど、“ステータスー出身地 オープン”って言ってもらえないかしら?」
「あ、はい。ステータスー出身地 オープン」
俺の言葉とともに、俺の目の前に一枚の紙が出現した。
「っと、あぶねぇ」
そのまま落ちてしまうところだった。紙には“ジパング”とだけ書かれていた。俺の横からディアナさんはその文字を見た。
「やっぱり、ジパングからきたのね! いらっしゃい、色々私が説明してあげる」
家の中に入っていくディアナさんに続いて家に入っていく。
「俺がつれてきたんだけどなぁ……」
…後ろで何か言ってるアポロさんは一旦忘れておくことにしよう。
「セイカくんはこの国のことどれくらい知ってる?」
「…確か、ヒューマン、エルフ、翼人、天使といった様々な種族がいるってことと、スキルがあることは知ってます」
攻略ページに載ってた世界観はこんなものだった。
「じゃあ、ほとんど知らないのね」
「え、そうなんですか」
「まあ、今言ったことは間違ってないわよ? ただ、それ以上にジパングとはまだたくさん違うところがあるわ」
俺が思っていた以上に、奥が深いな…。
「この国KimIは絶対神KimI様の管轄下にあるの。一年は六月でかわるわ。 今年はうのつき、ねのつき、ししのつき、ちょうのつき、ろうのつき、にやのつき、になってるけど、毎年六月は名前が変わったり、変らなかったりするはね。今はうのつきよ。何か質問有るかしら?」
「いや、あの、質問だらけなんですけど」
ディアナさんは早口でまくしたてるように、今まで知らなかった情報を足していくから、聞き洩らしが…! ってか、KimI…さん? あの幼女って神様だったのかよ!? しかも、月の名前毎年かわんの!? メンドクセー!
「じゃあ一つだけ質問していいわよ」
「一つだけですか?」
「ええそうよ。 セイカくんは何が一番聞きたい? さっきのことに関係なくてもいいわよ」
「え…じゃあ、おっさ…アポロさんとディアナさんの関係ってなんですか?」
わからないことに関する質問をして、その説明の中でまたわからない単語を出されるよりも、こっちの質問の方が簡潔でいいだろ! …いや、やっぱり勿体なかったか? でも、こんな美人なディアナさんとおっさんなアポロさんの関係は気になるだろ!
「…ふふっ、まさかそんな質問されるなんて、思ってもみなかったわ。 セイカくん合格!」
「え? なんの話ですか?」
「セイカくん面白いから、KimIの国の常識を覚えるまで、我が家で面倒見てあげるわ、どう?」
「ホントですか!? ぜひお願いしたいです!!」
ディアナさんの渡りに船な提案に一も二もなくうなずく。
「ええ、いいわよ。それじゃ、畑仕事をお願いしてもいいかしら? その間にセイカくんが暮らす準備をしておくわ」
「はい、了解です」
「兄さんと一緒に畑にいってらっしゃい」
「兄さん?」
「貴方が知りたがってた私達の関係よ。あそこで説明できなくて落ち込んでる人は私の兄さんなのよ」
「えっ」
「パニくってんな」
「あら、復活したのね、兄さん。 ちなみにセイカくん。私と兄さんは双子だから同じ年よ」
「………」
「あら、驚きすぎてセイカくん真っ白になっちゃってる」
「そんなに驚くことか?」
「兄さんの恰好のせいよ」
「あー、そうなのか? でも、身支度整えてもどうせ畑仕事したら汚れるじゃねえか」
「そうね。 兄さんは畑仕事の方が大切だものね。 じゃあ、その兄さんの大好きな畑にセイカくんと行って来てちょうだい」
「りょーかい。 ほら、行くぞセイカ!」
「はっ! …あ、アポロさん! 畑ですね、わかってます、わかってます。 ディアナさんと双子なことも分かりましたよ。 ただ、頭で分かっても心が拒否するというか…ぶつぶつ」
「おーい、セイカ、それ俺に対して失礼なことに気づいてるか?」
「セイカくん、よろしく頼むわ」
「ディアナさんの望みとあれば!」
「…現金なヤツ」
「二人ともいってらっしゃい」
「いってきます」「おー」
そして、ディアナさんに見送られながら畑へとまた戻るのだった。
セイカは まちのひとと であった!!
セイカは じじつに おどろいている!
早くログアウトしたいのに、なかなか進まない。