音の花火大会
登場人物
・僕:高校生。少し内向的。彼女とは昔からの知り合い。
・彼女:高校生。明るく自然体。僕とは「友達以上、恋人未満」とも言える曖昧な関係。
二人は毎年、花火大会の日だけ一緒に過ごしている。
恋人ではない。
幼馴染というほどでもない。
でも、なぜか花火大会だけは二人でいる。
ナレーション
夏の終わり。
町では一番大きな花火大会の日。
僕は毎年、この場所に来ている。
……彼女と一緒に。
幼馴染というほど近くなく、恋人というほど遠くない。
ただ、花火大会の日だけは、なぜか一緒にいる。
今年で、何度目になるんだろう。
彼女「ねえ」
僕「ん?」
彼女「今年もここ?」
僕「だって、ここが一番静かだし」
彼女「花火大会なのに?」
僕「花火より人のほうが多いじゃん」
彼女「それは確かに」
僕「ほら、もう始まるよ」
ドン--。
二人とも空を見る。
でも、建物に遮られて花火は見えない。
彼女「……見えないね」
僕「うん」
彼女「何のために来たんだろ」
僕「花火の音を聞きに来たんじゃないの?」
彼女「そんな人いる?」
僕「ここにいるじゃん」
彼女「……私たちか」
二人は屋台で買ったものを食べながら話す。
僕「それ、また買ったの?」
彼女「好きなんだからいいでしょ」
僕「毎年それじゃん」
彼女「そっちだって毎年ラムネじゃん」
僕「これは伝統」
彼女「じゃあ私も伝統」
僕「便利な言葉だな、それ」
彼女「去年もここだったよね」
彼女「一昨年も」
彼女「その前も」
僕「……覚えてるんだ」
彼女「そりゃ覚えてるよ」
--こういうなんでもない会話が、僕は嫌いじゃなかった。
彼女「ねえ、卒業したらどうするの?」
僕「まだ決めてない」
彼女「嘘。決まってる顔してる」
僕「そっちは?」
彼女「私も……まだ」
……
ドン--。
僕「大学、遠いところ?」
彼女「……まあね」
僕「そっか」
彼女「そっちは?」
僕「僕も、たぶんここから離れる」
彼女「……そっか」
ヒューー……ドン--。
僕「ねえ」
彼女「ん?」
僕「来年も、ここにいる?」
彼女「……分からない」
僕「そっか」
彼女「そっちは?」
僕「僕?」
彼女「うん」
僕「……分からないな」
ドォン--。
彼女「今の、最後かな」
僕「たぶん」
彼女「結局、一個も見えなかったね」
僕「うん」
彼女「……来年は、ちゃんと見えるところ行こうか」
僕「来年?」
彼女「うん。来年」
僕「……約束?」
彼女「約束」
少し沈黙。
彼女「じゃあ、来年は場所ちゃんと調べてよ」
僕「なんで僕?」
彼女「今年ここ選んだの、そっちじゃん」
僕「……そうだった」
彼女「ふふっ」
僕「……ふふっ」




