サフィの不自由
五人はそのまま歩き続けていた。
風が草原を流れ、遠くの山が少しずつ近づいてくる。
先ほどの会話の余韻が、まだ空気に残っていた。
その沈黙を破ったのはルークだった。
「ところで」
サフィを見る。
「姫さまはどうだったんだ?」
サフィが眉を上げる。
「何が?」
ルークは肩をすくめる。
「先代の闘神のことを知ってるって言ってただろ」
「どこで見たんだ」
サフィは少し前を見ながら答えた。
「たまに」
「父に連れられて外に出ることがあった」
「そのとき遠くで見ただけ」
ガルドが少し驚く。
「へえ」
ルークが続ける。
「じゃあ普段は?」
サフィはさらっと言った。
「城」
ホープが振り向く。
「城?」
サフィはうなずく。
「水の神の城は海の中」
ルークが目を丸くする。
「海の中?」
サフィは当たり前のように言う。
「そう海底」
ガルドが感心したように言った。
「そりゃ地上に来ねぇわけだ」
サフィは肩をすくめる。
「父に連れられない限り」
「地上に出ることはほとんどなかった」
少し間を置いて言う。
「神の娘だから」
「不自由はなかった」
そして少しだけ視線を逸らす。
「でも」
「自由でもなかった」
風が静かに吹く。
ルークもガルドも何も言わなかった。
セリアはサフィを少し見ていた。
そのときホープが笑った。
「じゃあ」
サフィが顔を上げる。
ホープは言った。
「今から作ればいいじゃん」
サフィがきょとんとする。
ホープは空を見上げた。
「地上の思い出」
「いっぱい」
そして仲間たちを見る。
「どうせしばらく一緒に旅するんだし」
ガルドが笑う。
「違いねぇ」
ルークも軽く笑った。
「姫さまの初めての地上旅か」
セリアは静かに言う。
「悪くない」
サフィは少し黙っていた。
そして顔を少しそらしながら言う。
「……別に思い出とかどうでもいい」
ルークがにやりと笑う。
「本当か?」
サフィは少し照れたように言った。
「ただ」
少し間を置く。
「もし出会うなら」
四人を見る。
「先代の闘神様みたいなかっこいい人がいい」
ルークが吹き出した。
ガルドが笑う。
ホープは苦笑いする。
「またそれ言うのか」
サフィはそっぽを向く。
「悪い?」
その声には少しだけ照れが混ざっていた。
だが、その言葉はどこか場を和ませていた。
五人の間に、小さな笑いが広がる。
風が吹き抜ける。
遠くの山は、もうかなり近かった。
その向こうに――
竜の神の領域が広がっている。




