ホープの父と母
城を離れた五人は、北へ向かって歩いていた。
竜の神の領域。
そこは闘神の領地のさらに先、山と荒野が続く場所にある。
道は静かだった。
風が草を揺らす音だけが聞こえる。
ルークが前を歩き、周囲を警戒している。
セリアは少し後ろで空と森を見ていた。
ガルドは大きな歩幅でゆっくり進む。
そしてその後ろを、ホープとサフィが歩いていた。
しばらく静かな時間が続く。
そのとき。
サフィがふと口を開いた。
「ねえ」
ホープが振り向く。
「どうした?」
サフィは少し考えるように言った。
「先代の闘神様」
少し間を置く。
「なんで人間と結婚したの?」
ルークがすぐに振り向く。
「姫さま」
少し低い声だった。
「それは他人が口を出すことじゃない」
サフィが眉を上げる。
「聞いただけ」
ルークは小さく息を吐く。
だがその前に、ホープが言った。
「大丈夫」
少し笑う。
「俺は気にしてない」
サフィがホープを見る。
ホープは歩きながら続けた。
「俺さ」
「両親に会ったの、十三歳のときなんだ」
サフィが驚く。
「え?」
ホープは空を見上げた。
「それまでは普通の人間の夫婦に育てられた」
ガルドが後ろから言う。
「血は繋がってないが、優しかったみたいだな」
ホープはうなずく。
「うん」
少しだけ懐かしそうに笑う。
「だからさ」
「正直、実の両親のことはあまり知らない」
サフィは黙って聞いていた。
ホープは続ける。
「でも両親が亡くなったあと」
「城の人たちに聞いたんだ」
少し思い出すように言う。
「先代の闘神は」
「すごくクールだったらしい」
ルークが小さく笑う。
「想像できるな」
ホープも笑った。
「うん」
「母と会うまではずっと戦いの日々だったって」
セリアが静かに聞いている。
ホープは続ける。
「でも母と結婚してから変わったらしい」
サフィが少し顔を上げる。
「母のことをすごく気にかけてたって」
「時々ほんの少しだけど微笑むこともあったって」
風が静かに吹く。
ホープは続けた。
「母も父を愛してた」
「それに」
少し間を置く。
「離れて暮らしてた俺のことも」
「ずっと気にかけてたって聞いた」
セリアの表情が少し柔らかくなる。
ホープは少し空を見る。
そして静かに言った。
「最後も二人とも穏やかだった」
ホープの声は落ち着いていた。
「ちゃんと見届けたから」
風が草を揺らす。
ホープは続けた。
「だからさ」
サフィを見る。
「父も」
「母も」
少し笑う。
「きっと幸せだったと思う」
そして照れくさそうに言う。
「俺さ育ててくれた親にも生みの親にも」
「ちゃんと愛されてたんだなって」
まっすぐ前を見て言った。
「そう思ってる」
しばらく沈黙が続く。
そしてサフィが言った。
「ふーん」
興味をなくしたような声だった。
「そうなんだ」
それだけだった。
ホープは苦笑する。
ルークが小さく笑う。
ガルドは肩をすくめる。
セリアは何も言わなかった。
五人はそのまま歩き続ける。
遠くの空には、山の影が見え始めていた。
その向こうに――
竜の神の領域がある。




