消えない光
祠の中には、深い静けさが残っていた。
さきほどまで世界を揺らしていた神々の力も、黒く渦巻いていた感情の嵐も、すべて消えている。
その石床の上に――
サフィが倒れていた。
「……サフィ!」
ホープが駆け寄る。
膝をつき、その身体を抱きかかえる。
だが――
サフィの身体は、少しずつ薄くなっていた。
まるで光の粒になって消えていくように。
ホープの胸が締め付けられる。
「……サフィ」
震える声だった。
サフィはゆっくりと目を開ける。
そして、弱々しく笑った。
「……ホープ」
かすれた声。
「楽しかった」
ホープの腕が震える。
サフィは少しだけ顔を近づける。
「それに……」
小さく笑う。
「先代の闘神様より」
「……かっこよかったよ」
その言葉を聞いた瞬間――
「サフィ!」
ルークたちが駆け寄ってきた。
「しっかりしろ!」
ガルドが叫ぶ。
「ダメだ!」
ルークの声が震える。
「いっちゃだめだ!」
叫びだった。
だがサフィの身体はゆっくりと光へ変わっていく。
ホープの腕の中で――
最後の光が、ふっと消えた。
その瞬間
ホープの目から涙が溢れた。
「……くそ」
拳が震える。
「救えなかった……」
「俺は……また」
自分を責める言葉が漏れる。
そのときだった。
ホープの身体から、光が溢れた。
創造の神が残した加護。
最後に残された力だった。
光が祠の中に集まり始める。
空気が震える。
光が一点へと集まっていく。
そして――
その光の中から、一つの影が現れた。
やがて、形になる。
長い水色の髪。
透き通る瞳。
そこに立っていたのは――
サフィだった。
ホープの目が大きく開く。
「……サフィ?」
サフィ自身も驚いたように周囲を見回す。
「……え?」
次の瞬間
ホープはサフィを強く抱きしめた。
「よかった……!」
声が震えていた。
「本当に……よかった」
サフィは少し戸惑いながらも、静かに言う。
「……何が起きたのか」
「よくわからないの」
記憶を探るように目を閉じる。
「断片的だけど……」
「暗闇の中で」
「先代の闘神様と……」
少し考える。
「もう一人の女性が現れた」
ホープの心臓が強く打つ。
サフィは続ける。
「その人たちが言ったの」
「……息子をよろしく」
「って」
しばらく考え込む。
「それから……」
「魂が戻ってくるとき」
「創造の神が言った」
サフィは静かに呟く。
「人間として生きろ」
そして少し微笑む。
「それと……」
「父様が」
「強く生きろって」
そこまで言うと、サフィはホープを抱きしめ返した。
ルークたちも近づく。
セリアは静かに涙を拭った。
ガルドは大きく息を吐き、笑った。
神々は消えた。
それは確かな事実だった。
だが――
サフィは戻ってきた。
そのことが、皆の胸を満たしていた。
そのときホープは自分の手を見つめた。
体の奥にあった力が、もう感じられない。
闘神の力も、神の加護も――
すべて消えていた。
ホープは小さく笑う。
「……俺」
「ただの人間になったみたいだ」
そのときだった。
ホープの手に握られていた闘神の剣が、静かに光を放つ。
淡い光だった。
まるで、誰かが見守っているような温かい光。
そして次の瞬間――
剣は光の粒となり、静かに消えていった。
ホープはその光を見送る。
そこには、どこか父の気配を感じていた。
しばらくして倒れていたシャインが、ゆっくりと目を開けた。
「……」
静かに身体を起こす。
その身体から、神の力はもう感じられない。
感情の神の力は消えていた。
ただの――エルフだった。
ホープたちはすぐに駆け寄る。
「シャイン!」
ホープが笑う。
涙を拭いながら。
「よかった……!」
「生きてて良かった!」
シャインはしばらく何も言わなかった。
そして、静かに口を開く。
「……ありがとう」
その言葉は小さかった。
だが、確かに
心からの言葉だった。




