僕を切れ
祠の奥で、黒い神力が渦巻いていた。
その中心に立っているのは――シャイン。
だが、もうそこに彼の意識はなかった。
感情の神の力が、完全に暴走していた。
怒り。
憎しみ。
嫉妬。
孤独。
絶望。
ありとあらゆる負の感情が、まるで堰を切ったように溢れ出している。
黒い力が、祠の天井を覆い尽くしていく。
空気が重く、冷たく変わる。
まるで世界そのものが沈み込んでいくようだった。
シャイン――いや、暴走した感情の神が口を開く。
その声は、もう彼のものではない。
重く、濁りきった声だった。
「……すべてを」
神力が膨れ上がる。
「すべてを負に」
黒い力が広がる。
「すべてに……絶望を」
その言葉が落ちた瞬間、祠全体が震えた。
ホープはその光景を見つめていた。
そして――思い出していた。
七年前。
母が覚醒したあの日。
人でありながら、時の神となり、暴走した母。
すべての時を止めようとした。
あの夜。
最後に――
闘神の剣で、母の胸を貫いた。
剣を握る手が震える。
あの感触は、今も消えていない。
ホープは小さく呟いた。
「……今度は」
顔を上げる。
「救う」
前へ踏み出す。
だがその瞬間。
ビシィィン!!
神の鞭が空を裂いた。
巨大な鞭が、うねりながらホープへ襲いかかる。
だが――
ガンッ!!
闘神の剣が光る。
まるで意志を持つように、鞭を弾いた。
火花が散る。
ホープは一歩も退かなかった。
まっすぐシャインを見つめる。
「シャイン」
声を届ける。
「救うよ」
静かな声だった。
「友達だから」
その瞬間。
暴走する神力の中で、ほんのわずかに――
シャインの瞳が揺れた。
崩れかけた意識の奥から、声が漏れる。
かすかな声だった。
「……ありがとう」
ホープの目が大きく開く。
シャインの唇が動く。
「……僕を」
苦しそうに言う。
「切れ」
ホープの呼吸が止まる。
涙がにじむ。
首を振る。
「……できないよ」
声が震える。
「そんなの……できない」
そのとき、ルークが叫んだ。
「ホープ!」
ルークの顔は青ざめていた。
空を指す。
黒い感情の力が、祠の外へと広がり始めている。
「このままじゃ」
歯を食いしばる。
「負の感情が世界を覆う!」
セリアも顔を上げる。
「怒りも」
「憎しみも」
「嫉妬も」
「孤独も」
「全部が広がる……!」
ガルドが低く唸る。
「そうなったら……」
拳を握る。
「みんな、負の感情に取り憑かれる」
ルークが言った。
「世界は終わる」
その瞬間――
感情の神の鞭が高く振り上がる。
黒い神力が集まる。
狙いは――ホープ。
動かないホープへ、巨大な鞭が振り下ろされる。
「ホープ!!」
サフィの叫びが響いた。
その瞬間――
空が裂けた。
一筋の光。
まっすぐ落ちてくる。
ドォォォン!!
光の槍が地面へ突き刺さった。
鞭を弾き飛ばす。
爆風が広がる。
神力の嵐が押し返される。
ホープが顔を上げた。
その光を見つめる。
それは――
創造の神の槍。
そして次の瞬間。
光の中から、一人の神が姿を現した。
創造の神だった。




