感情の神との再会
祠の静寂の中に、五人の姿が揃った。
ホープがゆっくりと立ち上がる。
その顔には、まだ涙の跡が残っていた。
その瞬間――
「ホープ!」
サフィが駆け寄った。
勢いよくホープの胸に飛び込む。
「遅い!」
声は震えていた。
「帰ってくるのが遅いよ!」
涙を拭こうともせず、サフィは続ける。
「みんな……ずっと待ってたんだから」
ホープは少し驚いたように目を瞬かせた。
それから小さく笑う。
「……ごめん」
サフィは顔を上げる。
少し怒ったような顔のまま、また涙を拭った。
「ほんとに」
「無事でよかった……」
その様子を見て、ルークが腕を組む。
「全員戻ったな」
ガルドが大きく息を吐いた。
「やれやれだ」
セリアが静かに言う。
「……それぞれ」
「乗り越えた」
それぞれが自分の負の感情と向き合い、そして打ち勝った。
そのとき。
祠の中央に残っていた水晶玉が淡く光った。
そして――
一つ、また一つと、音もなく消えていく。
最後の光が消えた瞬間。
ゴゴ……と重い音が響いた。
祠の奥の石壁がゆっくりと動き始める。
そこに、新しい通路が現れた。
重厚な石の扉。
その奥へ続く道。
五人は思わず息をのんだ。
その先に――
感情の神がいる。
ルークが一歩前に出る。
「……行こう」
短く言った。
ガルドが拳を鳴らす。
「ここまで来たんだ」
そして仲間たちを見渡す。
「負の感情に勝った俺たちなら」
笑う。
「大丈夫だろ」
セリアが静かに頷いた。
サフィもホープの隣に立つ。
ホープはゆっくりと扉の前に立った。
そして――
扉を押し開く。
重い音とともに、扉が開いた。
その先には、広い石の空間が広がっていた。
そして――
中央に、一人の男が立っていた。
まるで、ずっと待っていたかのように。
長い黄色の髪。
光を受けて淡く輝いている。
耳はエルフのように細く尖っていた。
瞳は淡い金色。
その視線は静かで、落ち着いている。
穏やかな空気をまといながらも、その存在には確かな神の威圧があった。
男がゆっくりと微笑む。
「……久しぶりだね」
その視線は、まっすぐホープに向けられていた。
「ホープ」
ホープが一歩前に出る。
そして静かに言った。
「……シャイン」
感情の神。
その男は、わずかに頷いた。
しばらく互いを見つめる。
そしてホープが口を開いた。
「シャイン」
少しだけ息を吸う。
「一緒に来ないか」
仲間たちがわずかに驚く。
ホープは続けた。
「俺たちと一緒に」
「土地を守って暮らしていかないか」
「争うんじゃなくて」
「守るために」
静かな提案だった。
シャインはしばらく黙ってホープを見ていた。
そして――
小さく笑った。
「……君は」
肩をすくめる。
「相変わらず甘いね」
穏やかな声だった。
だがその奥には、冷たい響きがあった。
シャインはゆっくりと歩き出す。
そして静かに言った。
「先代の闘神」
金色の瞳が細くなる。
「覚えているかい?」
ホープは答えない。
シャインは続けた。
「あの男は強かった」
「勇ましく」
「そして」
「冷酷だった」
静かな声だった。
「神々に対しても容赦がない」
「敵であろうと神であろうと」
「躊躇なく剣を振るう」
その瞳に、ほんのわずかな憧れが宿る。
「だからこそ魅力があった」
「憧れだったよ」
「強く」
「揺るがず」
「誰にも屈しない」
その姿は、神である自分たちにさえ恐れられていた。
だが――
シャインの表情が変わる。
少しだけ、冷たい笑みになる。
「ところが」
ゆっくり言った。
「人間の女と結婚した」
ホープの拳がわずかに握られる。
シャインは構わず続ける。
「驚いたよ」
「神でもない」
「ただの人間の女」
「そんな存在を選ぶとは」
静かに笑う。
「そして変わってしまった」
「闘神は」
歩きながら言う。
「戦いだけを見ていた男が」
「その女を気にかけ」
「守り」
「共に暮らし」
「時には」
「微笑むようになった」
金の瞳が冷たく光る。
「骨抜きだ」
「すっかり牙を抜かれた」
「以前の闘神の面影はほとんど消えていた」
シャインは肩をすくめた。
「英雄は愛など持つべきではない」
「感情など邪魔なだけだ」
そしてホープを見る。
「闘神が死に」
「君が闘神になった」
「だから」
少しだけ期待するように言う。
「思ったんだ」
「今度こそ神々に復讐するのではないかと」
だが。
シャインは小さく笑った。
「……期待外れだった」
その笑みは穏やかだったが――
言葉は、冷酷だった。




