ホープ 〜悲しみと迷い〜
ホープが目を覚ましたとき、そこは暗闇だった。
深く、静かな闇。
祠で水晶玉に触れた、その瞬間までは覚えている。
仲間たちの姿はない。
「……試練か」
小さく呟く。
そのとき――
闇の奥に、小さな灯りが見えた。
淡い光。
ゆっくり揺れている。
ホープは静かに歩き出した。
近づくにつれ、光は少しずつ大きくなる。
そして――
その光の中に、人影が見えた。
二人。
ホープの足が止まる。
「……」
見間違えるはずがなかった。
そこに立っていたのは――
父。
先代の闘神。
そして母。
人間でありながら、時の神だった女性。
ホープの声が震える。
「……父さん」
「母さん」
母は、やわらかく微笑んだ。
あの頃と同じ優しい笑顔だった。
「ホープ」
静かな声。
「ここで三人で暮らしましょう」
ホープの胸が揺れる。
母は続けた。
「戦いのない場所」
「静かな場所」
「あなたと闘神様と私......私たち三人で」
「思い出を作りましょう」
闘神が隣で腕を組んでいた。
いつものようにクールな表情。
そして短く言った。
「お前はもうよくやった」
ホープを見る。
「休め」
母が闘神に寄り添う。
二人は並んでホープを見つめていた。
母が優しく言う。
「もうあなたが戦う必要はないの」
闘神も静かに頷く。
「ここで終わりにしろ」
その言葉は、どこか優しかった。
だが――
ホープは首を振った。
「……違う」
ゆっくり言う。
「父さんも」
「母さんも」
「そんなこと望んでない」
闘神の目がわずかに動く。
ホープは続けた。
「俺は」
剣の柄に手をかける。
「守るために」
「戦い続ける」
剣を抜いた。
その瞬間。
母の表情が変わった。
そして静かに言った。
「また」
「その剣で」
少しだけ悲しそうに微笑む。
「私を貫くの?」
ホープの体が止まる。
胸が締め付けられる。
その瞬間――
記憶が蘇る。
あの夜。
震える手。
剣。
母の胸を貫いた感触。
温かい血。
母の最後の微笑み。
「……っ」
ホープの呼吸が乱れる。
悲しみが胸から溢れた。
母が近づく。
優しい声で言う。
「もう」
「剣を捨てなさい」
闘神も言った。
「その剣は」
「もうお前には必要ない」
ホープの手が震える。
そして――
剣が手から落ちた。
カラン、と音が響く。
母が微笑む。
闘神がゆっくり歩み寄る。
二人がホープの前に立つ。
そして手を伸ばした。
その瞬間――
ホープの体の奥から、炎が弾けた。
「……!」
怒鳴る声が響く。
『なにしてやがる!!』
ホープの目が見開かれる。
「……炎の神!」
炎の神の声だった。
『よく考えろ!!』
強く、叩きつけるような声。
『あの時の闘神と時の神を思い出せ!』
『あいつらが』
『何を望んでたか!!』
ホープの胸の奥で、何かが弾ける。
父の背中。
母の笑顔。
二人が守ってきた土地。
そして
仲間たちの顔。
ルーク。
セリア。
ガルド。
サフィ。
ホープの拳が強く握られる。
「……そうだ」
低く言った。
「俺は」
顔を上げる。
「父が守ってきたこの土地を」
拳を握りしめる。
「これからも守るんだ!」
次の瞬間ホープは前に踏み出した。
拳を振り上げる。
「うおおお!!」
闘神の幻影を――
拳で殴り飛ばした。
幻影が砕ける。
そして足元の剣を拾い上げる。
母の幻影が目の前に立つ。
ホープは涙を浮かべながら叫んだ。
「……ごめん」
そして――
剣を振るう。
幻影が光となって砕けた。
世界が揺れる。
光が弾ける。
そして――
ホープは膝をついていた。
祠の石の床。
「……戻った」
息を整える。
ゆっくり顔を上げる。
そこには――
四人が立っていた。
ガルド。
セリア。
ルーク。
サフィ。
全員がホープを見ている。
ホープの目から、涙がこぼれた。
止まらなかった。
過去の悲しみ。
今ここにいる仲間たちとの絆。
二つの感情が混ざり合い、涙になって溢れていた。
誰も何も言わない。
ただ仲間たちはそこに立っていた。




