竜の異変
神殿の奥。
巨大な円卓を囲むように、神々が集まっていた。
天上界の会議場。
白い柱が空へ伸び、天井のない広い空間。
雲の海の上に浮かぶ神殿には、重い空気が満ちていた。
ホープはその中に立っていた。
神々の姿を見回す。
炎の神。
風の神。
土の神。
雷の神。
多くの神が集まっている。
だが――
一柱だけ、姿が見えない。
ホープは眉をひそめた。
「……竜の神は?」
誰もすぐには答えなかった。
その沈黙を破ったのは、創造の神だった。
白い衣をまとい、長い槍を手にした神。
静かな声で言う。
「それについて話す」
神殿の空気がさらに重くなる。
創造の神はゆっくり続けた。
「竜たちが暴れている」
神々の間にざわめきが走る。
ホープは顔を上げた。
「暴れてるって……どういう意味ですか」
創造の神は答える。
「各地の領地が襲われている」
「村、都市、神の領域」
「区別なく破壊している」
炎の神が腕を組む。
「ただの暴走か?」
創造の神は首を横に振った。
「分からない」
「目的が見えない」
「ただ破壊しているように見える」
そのとき、低い声が響いた。
「……俺もやられた」
雷の神だった。
雷の神の腕には深い傷が残っている。
神の体に刻まれた傷は、簡単には癒えない。
雷の神が続ける。
「竜の群れだ」
「俺の領地の空を裂いてきた」
「一体じゃない」
「何体もだ」
炎の神が舌打ちする。
「竜の神は何してやがる」
風の神が言う。
「それが問題なんだ」
「竜の神が姿を見せない」
神殿の空気が冷えていく。
土の神が低く言った。
「つまり」
「竜の神が止めてねぇってことか」
誰も否定しなかった。
創造の神が言う。
「今はまだ、被害は各地の領地にとどまっている」
「だが」
「いつ天上界に及ぶか分からない」
その言葉に、神々の視線が鋭くなる。
炎の神が言った。
「対処はどうする」
神々の間でざわめきが広がる。
そのときホープが口を開いた。
「俺が行きます」
神々の視線が一斉に向く。
炎の神が眉を上げた。
「どこへだ」
ホープは答える。
「竜の神のところ」
神殿が静まり返る。
風の神が言った。
「危険だ」
土の神も言う。
「相手は竜の神だぞ」
雷の神が低く笑う。
「闘神でも無茶だ」
だがホープは落ち着いていた。
「戦うつもりはありません」
神々を見る。
「様子を見に行くだけです」
炎の神が言う。
「どうやって近づく」
ホープは少し笑った。
「闘神の気配を消します」
神々の間に小さなざわめきが起きる。
風の神が目を細める。
「できるのか?」
ホープはうなずいた。
「たぶん」
そして言う。
「俺には人間の血も流れてる」
「神の気配を消すことができる」
創造の神が静かにホープを見ていた。
ホープは続ける。
「竜の神が何をしてるのか」
「確かめないと」
「このままじゃ」
少し言葉を切る。
「守れない」
神殿の空気が揺れる。
炎の神が言った。
「一人で行くつもりか」
ホープは首を振った。
「仲間と行きたい」
ルーク。
セリア。
ガルド。
三人の顔が頭に浮かぶ。
だがホープは少し考えて言う。
「……でも」
「俺の領地も心配なんです」
沈黙。
そのとき創造の神が口を開いた。
「それなら」
神殿の空気が静まる。
創造の神はゆっくり言った。
「お前の仲間が同行している間」
「お前の領地は私が守ろう」
ホープは目を瞬かせた。
炎の神が驚いた顔をする。
土の神も創造の神を見る。
創造の神は続ける。
「闘神の領地」
「私が責任を持つ」
ホープは少しだけ黙った。
そして答える。
「……分かりました」
創造の神が静かに言う。
「私を信じるのか」
神殿の空気が止まる。
ホープは迷わなかった。
「信じます」
まっすぐ答える。
「迷う理由がない」
創造の神はしばらくホープを見ていた。
神々の会議場の空気が、静かに張り詰めていく。
そして――
会話は、まだ続こうとしていた。




