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闘神の子Ⅱ  作者: ありり
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セリア 〜欲望と迷い〜

セリアが目を覚ましたとき、そこは暗闇だった。


深く、静かな闇。


足元の感覚だけがかすかにある。


祠で水晶玉に触れた瞬間までは覚えている。


だが今、仲間の気配はない。


「……転移」


小さく呟く。


冷静に周囲を見渡す。


そのとき――


闇の奥に、小さな灯りが見えた。


赤い光。


静かに揺れている。


セリアはゆっくり歩き出した。


足音が、静寂の中に淡く響く。


やがて、その灯りの正体が見えた。


小さな火の玉だった。


赤い火の玉。


ふわりと宙に浮かび、ゆっくりと揺れている。


セリアが近づくと、その火の玉がわずかに動いた。


そして声が響いた。


「……何故戦う?」


静かな声だった。


セリアは弓を持つ手を少しだけ引き締める。


「あなたは誰?」


火の玉は答えない。


ただ、もう一度問う。


「何故戦う?」


セリアは少しだけ目を伏せ、答えた。


「土地を守るため」


「闘神を守るため」


そして続ける。


「生きているものたちを守るため」


赤い火の玉が静かに揺れる。


「そう」


そして囁いた。


「だが」


「本当にそれだけ?」


その瞬間、空間が揺れた。


闇がゆっくりと消えていく。


セリアの前に広がったのは――


穏やかな家だった。


窓から柔らかな光が差し込んでいる。


部屋には静かな空気が流れていた。


セリアは椅子に座り、本を読んでいる。


静かに。


穏やかに。


戦いのない日常。


そのとき、扉が開いた。


「ただいま」


声がする。


振り向く。


そこに立っていたのは――


ルークだった。


鎧ではなく、普段着の姿。


セリアが立ち上がる。


笑顔だった。


優しく、穏やかな笑顔。


セリアは彼の手を取る。


二人は自然に並ぶ。


暖かな光が、二人を包む。


赤い火の玉の声が響く。


「これが」


「お前の望む未来」


「戦いがなければ」


「手に入る未来」


セリアの胸が揺れた。


静かな生活。


争いのない日々。


ルークと共に過ごす時間。


それは――


確かに、欲しい未来だった。


赤い火の玉は続ける。


「今引き返せば手に入るかもしれない」


「騎士をやめればいい」


「戦わなければいい」


幻影の中のセリアは笑っている。


幸せそうに。


ルークと並んで。


その姿を見て――


セリアの胸に、初めて強い感情が溢れた。


欲しい。


この未来が。


静かな生活が。


ルークと共に生きる日々が。


欲しい。


セリアの足が止まる。


弓を持つ手が、わずかに震える。


赤い火の玉がゆっくり近づく。


「そう」


「それでいい」


「戦う必要はない」


「お前の望みを」


「叶えよう」


火の玉がセリアの胸へ近づく。


「体を借りる」


その瞬間――


セリアの体の奥から、風が吹き上がった。


「……!」


柔らかな声が響く。


『目を覚まして』


セリアの目が見開かれる。


「……風の神」


声が聞こえる。


『守るべきものがあるのでしょう』


『望む未来があるのでしょう』


『ならば』


風が優しく吹く。


『その未来は』


『誰かから与えられるものではない』


『あなたが築くもの』


セリアの瞳に光が戻る。


「……そう」


小さく呟く。


「そうね」


弓を握り直す。


「私は守る」


静かな決意だった。


「そして」


弓を引く。


「未来は」


矢がつがえられる。


「自分で切り開く」


矢が放たれた。


風を切り裂き――


赤い火の玉を貫く。


光が砕けた。


次の瞬間――


セリアは膝をついていた。


石の床。


祠の中。


「……戻った」


ゆっくり立ち上がる。


そのとき、声がした。


「おう」


振り向く。


そこに立っていたのは――


ガルドだった。


斧を肩に担ぎ、笑っている。


「セリア」


セリアは小さく息を吐いた。


「……無事だったのね」


ガルドが頷く。


「そっちもな」


二人は少しだけ笑う。


そして周囲を見る。


まだ祠には二人だけ。


ガルドが言った。


「他の奴らも」


「きっと戻る」


セリアは頷いた。


「ええ」


そして静かに言う。


「信じて待ちましょう」


二人は並んで立つ。


仲間の帰りを信じて。

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