ガルド 〜恐怖と迷い〜
ガルドが目を覚ましたとき、そこは暗闇だった。
どこまでも続くような闇。
足元の感覚はあるが、周囲には何もない。
「……ここは」
低く呟く。
声が闇に吸い込まれていく。
祠で水晶玉に触れた、その瞬間までは覚えていた。
だが、今は一人だ。
ルークも、セリアも、ホープも、サフィもいない。
ガルドはゆっくり立ち上がった。
そのとき――
闇の奥に、小さな灯りが見えた。
ほんの小さな光。
揺れている。
ガルドはそれを見つめた。
「……行くしかねぇか」
そう言って歩き出す。
足音だけが、静かな空間に響く。
少し進むと、その光の正体が見えた。
小さな火の玉だった。
黄色い火の玉。
ふわりと宙に浮いている。
ガルドが近づくと、その火の玉が揺れた。
そして声が響く。
「……何故戦う?」
低く、不思議な声だった。
ガルドは眉をひそめる。
「誰だ」
火の玉は答えない。
ただ同じ問いを繰り返す。
「何故戦う?」
ガルドは腕を組む。
「決まってる」
低く言った。
「土地を守るためだ」
そして続ける。
「闘神を守るため」
「生きている者たちを守るためだ」
火の玉が静かに揺れた。
そしてまた問いかける。
「本当に?」
声は穏やかだった。
「お前は防具職人だ」
「好きな防具を作ればいい」
「好きなだけ」
「誰にも邪魔されず」
「穏やかに」
ガルドは黙る。
火の玉は続けた。
「何故」
「命をかける?」
その瞬間――
ガルドの視界が揺れた。
闇が消える。
そこに広がったのは、小さな工房だった。
暖かな火。
鉄を打つ音。
そして――
「ガルド」
声がした。
振り向く。
そこには両親がいた。
笑っている。
ガルドもそこにいる。
防具を作っている。
楽しそうに。
両親と一緒に。
火の玉の声が響く。
「見ろ」
「これが」
「お前の望む未来だ」
ガルドはその光景を見つめる。
暖かい。
穏やかだ。
戦いもない。
血も流れない。
ただ防具を作り、笑い合う日々。
火の玉は囁く。
「今引き返せば手に入る」
「騎士をやめればいい」
「戦わなければいい」
「そうすればこの未来は守られる」
ガルドの拳が震えた。
もし戦い続ければ――
この未来は失われるかもしれない。
両親を。
夢を。
すべて。
その瞬間。
ガルドの足が止まった。
心が揺れる。
「……」
初めてだった。
恐怖を感じたのは。
失うかもしれない未来。
その重さに。
体が動かない。
火の玉がゆっくり近づく。
「そうだ」
「それでいい」
「戦わなくていい」
「楽になれ」
火の玉がガルドの体へ近づく。
「お前の体」
「借りよう」
その瞬間――
ガルドの体の奥から、強い力が溢れた。
「……っ!」
声が響く。
怒鳴るような声。
『馬鹿者!!』
ガルドの目が見開かれる。
「……!」
その声は聞き覚えがあった。
『平和なくして未来はない』
重く、力強い声。
『その平和は』
『誰かが作るものではない』
『自分で作るものだ』
ガルドが叫ぶ。
「……土の神!」
『そうだ』
声が続く。
『お前は守るために戦うのだろう』
『逃げるためではない』
ガルドの拳が強く握られる。
迷いが消える。
「……そうだ」
低く言った。
「俺は守る」
そして斧を握る。
「守るために」
「盾を作るんだ!」
ガルドは斧を振り上げた。
そして――
目の前の黄色い火の玉へ叩きつける。
「うおおおお!!」
斧が光を裂いた。
火の玉が弾ける。
光が砕ける。
次の瞬間――
視界が変わった。
ガルドは膝をついていた。
石の床。
祠の中だった。
「……」
息を整える。
周囲を見る。
現実だ。
「戻った……か」
ガルドはゆっくり立ち上がった。
そして斧を肩に担ぐ。
「待ってろ」
小さく呟く。
「みんな」
その目はもう迷っていなかった。




