いざ、北の祠へ
翌朝。
天上界には、まだ静かな光が広がっていた。
白い雲の海の向こうから、朝の光が差し込んでいる。
ホープは静かに部屋の扉を開けた。
昨夜はあまり眠れなかった。
これから向かう場所を考えると、自然と目が覚めてしまったのだ。
廊下を歩き、神殿の入口へ向かう。
その途中――
一人の神が壁にもたれて立っていた。
炎の神だった。
腕を組み、にやりと笑う。
「早いな」
ホープは少し驚いた。
「炎の神」
炎の神は何も言わない。
ただ手を差し出した。
ホープも自然と手を出す。
ゴンッ。
拳と拳がぶつかる。
グータッチだった。
炎の神は短く言う。
「頑張れよ」
それだけだった。
だが、その一言に込められた気持ちは十分伝わった。
ホープは小さく笑う。
「……はい」
炎の神は満足そうに頷き、そのまま背を向けて歩いていった。
ホープはその背中を少しだけ見送る。
そして神殿の入口へ向かった。
できるだけ静かに。
神々に気づかれないように。
そっと外へ出ようとする。
だが――
「おそい」
声がした。
ホープは足を止める。
入口には三人の影が立っていた。
ルーク。
セリア。
ガルド。
腕を組んで待っていた。
ホープは苦笑する。
「……なんでここに」
ルークが肩をすくめる。
「決まってるだろ」
ガルドが笑う。
「一人で行く気だったんだろ」
セリアが静かに言った。
「それは許さない」
ホープは首を振る。
「これは俺の問題だ」
だがルークは即座に言った。
「だから?」
ホープは言葉を止める。
ルークは真っ直ぐ言う。
「俺たちは最後まで一緒だ」
ガルドも頷く。
「途中で降りる気はねぇ」
セリアも続ける。
「ついてくるなって言われても」
「ついていく」
ホープは三人を見た。
少しだけ目を伏せる。
そして、静かに笑った。
「……ありがとう」
顔を上げる。
「じゃあ」
拳を握る。
「行こう!」
その瞬間。
後ろから声がした。
「ちょっと!」
ホープたちが振り向く。
サフィが走ってきていた。
少し怒った顔だ。
「置いていくなんて酷い!」
ホープが苦笑する。
「サフィ」
サフィは腕を組んだ。
「私も行く」
そのとき。
後ろからゆっくりと歩いてくる影があった。
水の神だった。
サフィの隣に立つ。
そしてホープを見る。
「ホープ」
穏やかな声だった。
「娘を頼む」
サフィが少し驚いた顔をする。
「父様……」
ホープは静かに頷いた。
「任せてください」
水の神は満足そうに目を細めた。
そのとき。
ホープはふと気づいた。
ルークたちから感じる気配。
昨日とは明らかに違う。
ホープが眉を上げる。
「……なんか強くなってない?」
ルークが笑う。
「バレたか」
ガルドが胸を叩く。
「神様たちに稽古つけてもらった」
セリアも小さく笑う。
「それとさらに加護も」
ホープが驚く。
「本当か?」
ルークが言う。
「だから」
剣を肩に担ぐ。
「安心して俺たちを頼れ!」
ガルドが笑う。
「背中は任せろ」
セリアが静かに言った。
「ホープ、あなたは前だけ見て」
ホープは仲間たちを見渡す。
そして、強く頷いた。
「……よし」
空を見上げる。
北。
シャインのいる場所。
小さな祠。
ホープは言った。
「行こう」
五人は一斉に飛び立つ。
雲の海を越え。
北の地へ。
その姿を、遠くから一柱の神が見ていた。
創造の神だった。
静かに立ち、彼らを見送る。
そして小さく呟いた。
「……頼んだぞ」




