神々の会議
城の高台。
空はまだ曇り始めたばかりだった。
だが、その空気は明らかに変わっていた。
セリアは森の方角を見つめたまま、小さく言った。
「……間違いない」
ホープが振り向く。
「セリア?」
「どうした?」
セリアのエルフの瞳は遠い空を見ている。
「神の気配」
ルークが眉をひそめる。
「神?」
ガルドが腕を組む。
「この領地に来るのか?」
セリアはゆっくり首を振った。
「違う」
そして空を指す。
「天上界」
その言葉に、ホープの表情が少し真剣になる。
そのときだった。
城の上空に光が走る。
円のような光が広がり、空間がゆっくりと開く。
神界への門。
ルークが言った。
「……呼ばれたな」
ホープは軽く息を吐いた。
「みたいだな」
ガルドが笑う。
「相変わらず忙しいな、闘神様」
ホープは苦笑した。
「その呼び方、まだ慣れないんだよな」
そして三人を見る。
「ちょっと行ってくる」
セリアが言う。
「気をつけて」
ルークも言う。
「何か分かったらすぐ知らせろ」
ガルドが豪快に笑う。
「神が相手でも遠慮すんなよ!」
ホープが笑った。
「無茶言うなよ」
そして空を見る。
「じゃ、行ってくる」
光がホープを包む。
次の瞬間。
その姿は空の中へ消えた。
⸻
雲よりも遥か高く。
空の上に浮かぶ世界。
天上界。
巨大な白い柱が並ぶ神殿。
神々の住まう場所。
ホープは静かにそこへ降り立つ。
この場所に来るのは、もう珍しくない。
七年。
闘神になってから、何度もここを訪れていた。
最初は警戒されていた。
だが今では違う。
多くの神々がホープを受け入れていた。
「来たか」
豪快な声が響く。
振り向くと、炎の神が立っていた。
燃えるような髪。
巨大な体。
ホープが笑う。
「お、炎の神」
「久しぶり……でもないか」
炎の神が笑う。
「この前も来ただろうが」
そして拳を鳴らす。
「拳の型、忘れてないだろうな?」
ホープが少し照れたように笑う。
「ちゃんと練習してるよ」
「まだ全然かなわないけど」
炎の神が肩を叩いた。
「それでいい」
「お前は真面目すぎるくらいだ」
そのとき、風が横を抜ける。
軽い笑い声。
「相変わらずだね」
風の神だった。
細身の体に弓を背負っている。
ホープが言う。
「弓もまだ教わりきってないんですよ」
風の神が笑う。
「もう十分うまいよ」
「でも、もう少し教えてあげようか」
そのとき。
重い足音が響く。
ドン。
ドン。
土の神だった。
岩のような体。
背中には巨大な斧。
「小僧」
低い声。
「斧の振り方、忘れてないだろうな」
ホープが笑う。
「まだまだですよ」
「振り回されてばっかりで」
土の神がうなずく。
「それでいい」
「闘神は全部使えるようにならねぇとな」
そのとき。
神殿の奥に、一柱の神が静かに立っていた。
白い衣。
長い槍。
創造の神。
ホープの父――
先代の闘神を死に追いやった神。
少しだけ、空気が静まる。
創造の神はゆっくり言う。
「……来てくれてありがとう」
ホープは少し頭をかいた。
「呼ばれたら来ますよ」
「闘神ですから」
創造の神の目には、わずかな影があった。
七年前。
あの戦いのことを、彼は忘れていない。
だがホープは、恨みを向けなかった。
むしろ
槍を教えてほしいと頼んだ。
闘神はすべての武器を扱う。
それが、父だったから。
ホープも同じ道を歩こうとしている。
創造の神が言う。
「槍の型」
「覚えているか」
ホープは少し笑った。
「半分くらい……ですかね」
「まだまだ教えてもらわないと」
創造の神は小さくうなずいた。
そのとき神殿の奥で鐘の音が鳴る。
ゴォン――
低く重い音。
炎の神が腕を組む。
「始まるな」
風の神が空を見上げる。
「みんな集まったみたいだ」
土の神が言う。
「今回はただ事じゃねぇ」
創造の神が静かに言う。
「だからこそ」
ホープを見る。
「闘神」
「お前にも来てもらった」
神殿の扉がゆっくり開く。
神々の会議。
その場の空気は、すでに張り詰めていた。
そして――
会議が、始まろうとしていた。




