影
竜の神の咆哮が大地を震わせる。
黒い巨体が暴れ、炎が空へ噴き上がる。
ホープは再び剣を構えた。
闘神の剣。
父から受け継いだ剣を握りしめる。
「竜の神!」
炎の向こうへ声を張る。
「聞こえるか!」
剣を振るい、鱗へ斬りかかる。
だが――
竜の神の目は濁ったままだった。
理性の色はない。
怒りだけが渦巻いている。
ホープの声は、届いていない。
その瞬間ホープの脳裏に、ある光景がよみがえった。
血の匂い。
崩れた神殿。
自分の剣。
そして――
母。
剣を突き立てた、あの瞬間。
胸の奥が締め付けられる。
今でも忘れていない。
あの時の感触も。
母の微笑みも。
だがホープは強く剣を握る。
「……次は」
小さく呟く。
「守る」
決意が宿る。
その瞬間闘神の剣が、淡く光り始めた。
炎の神の加護が呼応する。
ホープの体を炎が包む。
だがそれは、竜の神の炎とは違う。
守るための炎だった。
ホープは走る。
激しい炎の中へ。
ゴォォォォ!!
炎が襲いかかる。
だがホープは止まらない。
一直線に竜の神へ向かう。
「ホープ!」
ルークが叫ぶ。
だが次の瞬間。
雷が走る。
ルークの剣が竜の神の翼を斬る。
「行け!」
セリアの矢が風をまとって飛ぶ。
竜の神の視線を逸らす。
ガルドが前へ出る。
盾を構え、炎を受け止める。
「俺が防ぐ!」
そしてサフィも動いた。
水の力が溢れる。
炎を押し返す蒸気が立ち上る。
「ホープ!」
仲間たちの支援。
その中でホープは竜の神へ辿り着いた。
巨大な爪が振り下ろされる。
ホープは剣を構える。
ガァァァン!!
爪と剣がぶつかる。
凄まじい衝撃。
だが――
拮抗する。
闘神の剣と、竜の神の爪。
二つの力がぶつかり合う。
竜の神の瞳が揺れる。
そして――
一瞬だけ正気が戻った。
「……」
竜の神の目が、ホープを見る。
苦しそうな声が漏れる。
「……影」
ホープの目が見開かれる。
その瞬間竜の神の体が震えた。
炎が暴れる。
怒りが噴き出す。
グォォォォォ!!
咆哮。
炎が爆発する。
ホープの体が弾き飛ばされた。
「ホープ!」
ガルドが飛び出す。
盾を構える。
炎が襲う。
ドォォォ!!
盾が炎を受け止める。
ルークとセリアが動く。
「こっちだ!」
ルークが雷の剣を振るう。
セリアの矢が風を裂く。
二人が竜の神の注意を引く。
その間にサフィがホープの元へ駆け寄る。
「ホープ!」
水の力を手に集める。
傷へ流し込む。
冷たい水が、熱を抑える。
ホープはゆっくり体を起こした。
「……ありがとう」
サフィは真剣な顔で言う。
「大丈夫?」
ホープは息を整えながら言った。
「竜の神が」
サフィを見る。
「さっき影って言った」
サフィの目が動く。
「影?」
ホープはうなずく。
「一瞬だけ正気に戻った」
サフィは竜の神を見る。
炎に包まれた巨体。
その足元。
黒い影が揺れている。
サフィは小さく呟いた。
「……影」
そしてホープを見る。
「もしかして」
少し考えながら言う。
「竜の神の影に何かあるんじゃない?」




