サフィの水の力
竜の神の領域の奥へ。
五人は慎重に進んでいた。
遠くでは、竜同士の戦いが続いている。
炎が空を裂き、吹雪が舞い、岩が弾け飛ぶ。
その余波が、時折こちらまで届いていた。
ゴォン――!
大きな岩が空から飛んでくる。
「来るぞ!」
ルークが声を上げる。
ガルドがすぐに前へ出た。
盾を構える。
土の神の加護を受けた盾は、岩の衝撃を受け止める。
ドンッ!!
鈍い音とともに岩が弾かれる。
ガルドはそのまま盾を構えたまま歩く。
「このまま進むぞ!」
ホープたちはガルドの後ろにつき、静かに前へ進んだ。
空気が張り詰めている。
少し進んだところで、ルークが口を開いた。
「なあ」
前を歩くホープに聞く。
「竜の神ってのは」
少し周囲を見ながら言う。
「そんなに気性荒いのか?」
ホープは首を振った。
「いや」
迷いのない声だった。
「違う」
少し遠くを見る。
「竜の神は言葉を話せる」
サフィが少し驚く。
「え?」
ホープは続けた。
「何度か話したことがある」
ルークが眉を上げる。
「会ったことあるのか」
ホープはうなずいた。
「数回だけ」
そして少し静かに言う。
「父と母が亡くなったとき」
「竜の神は」
少し間を置く。
「悼んでくれた」
その言葉に、一瞬沈黙が流れた。
ホープは前を見ながら言う。
「だから今の状況が分からない」
風が強く吹いた。
今度は冷たい風だった。
竜の戦いの余波だ。
遠くで氷の竜が吹雪を起こしている。
「……やっぱりおかしい」
セリアが小さく呟いた。
五人は慎重に進む。
その横で。
サフィはずっとホープの側を歩いていた。
少し後ろではなく。
ぴったり横に。
ホープの様子を時々見ている。
そのときだった。
突然――
ゴォッ!!
炎の塊が飛んできた。
竜同士の戦いの余波。
巨大な火の玉が、ホープめがけて落ちてくる。
「ホープ!」
ルークが叫ぶ。
だがその瞬間。
サフィが動いた。
「危ない!」
咄嗟だった。
手を前に出す。
水の力が集まる。
水の神の娘の力。
バシャッ!!
水が炎を包む。
ジュウゥゥ……
炎が消える。
煙が上がった。
ホープは少し驚いた顔をしていた。
そして笑う。
「サフィ」
サフィが振り向く。
ホープは言った。
「守ってくれてありがとう」
少し肩をすくめる。
「ちゃんと戦えてるじゃん」
サフィはそっぽを向いた。
「……たいしたことない」
いつもの調子だった。
だが胸の奥では、違った。
自分の力が役に立った。
ホープを守れた。
そのことが――
とても嬉しかった。
五人はまた進む。
そのときだった。
グォォォォォォォォォォ!!
大地を震わせるような雄叫び。
今まで聞いた竜の声とは、明らかに違う。
重い。
巨大な声。
ルークが顔を上げる。
「……今の」
ガルドも息を呑む。
「でけぇな」
セリアが静かに言った。
「普通の竜じゃない」
ホープは目を細めた。
そして言う。
「……竜の神だ」
風が止まる。
ホープが静かに続けた。
「近い」
一行の空気が一瞬で変わった。
緊張が走る。
五人は、竜の神の気配を感じながら――
さらに奥へ進んでいった。




