それでも前を向いて
焼け焦げた森の中。
竜の死骸から少し離れた岩の上に、ホープとサフィは並んで座っていた。
遠くではルークたちが武器の手入れをしている。
金属が触れる小さな音だけが、ときどき風に乗って聞こえてきた。
しばらく沈黙が続く。
ホープはゆっくり言った。
「……そのときの辛さは」
少し空を見る。
「今でも忘れられない」
サフィが静かに顔を上げる。
そして小さく聞いた。
「神との戦い?」
ホープは少しだけうなずいた。
「そう」
風が静かに吹く。
ホープは遠くを見ながら言った。
「相手は」
少しだけ間を置く。
「時の神」
サフィの瞳が揺れる。
ホープは続ける。
「そして俺の母」
その言葉に、サフィは息を呑んだ。
ホープは静かに話す。
「母は人間でもあった」
「でも時の神でもあった」
風が焼けた木々を揺らす。
ホープの声は落ち着いていた。
「最後は俺が」
少し拳を握る。
「剣で」
「貫いた」
サフィは言葉を失っていた。
ホープは続ける。
「今でも忘れられない」
少し目を閉じる。
「剣を突き立てたときの感覚」
「母の顔」
「全部」
ゆっくり目を開く。
「忘れられない」
サフィは何も言えなかった。
ホープは静かに言う。
「でも母の願いだった」
「父が守ってきた土地を守ること」
「世界を守ること」
風が吹く。
ホープは続ける。
「頭では分かってる」
「それが必要だったって」
少し笑う。
「それでも忘れない」
「これからもたぶん一生」
そして前を見る。
「だから俺は剣を振るう」
「守るために」
ホープはサフィを見る。
「でも」
少し柔らかく言う。
「サフィは」
「無理しなくていい」
サフィは少し黙っていた。
そして小さく言う。
「……ホープ」
ホープが見る。
サフィは少し照れたように言った。
「優しいね」
そして頭を少し下げる。
「ありがとう」
ホープは少し照れくさそうに笑った。
「どういたしまして」
そして少し悪戯っぽく言う。
「どう?」
サフィを見る。
「先代の闘神より少しはかっこいい?」
サフィは一瞬ぽかんとした。
そしてすぐに言い返す。
「まだまだ」
少し笑う。
「先代の闘神様の方がずっとかっこいい」
ホープが苦笑する。
「厳しいな」
サフィは小さく笑った。
その顔には、さっきまでの沈んだ表情はなかった。
笑顔が戻っていた。
そのときルークが声をかけてくる。
「おーい」
剣を肩に担いでいる。
「そろそろ行くぞ」
ガルドが盾を持ち上げる。
セリアも弓を背負い直した。
ホープは立ち上がる。
サフィも立つ。
五人は再び歩き出す。
焼け焦げた森の奥。
さらに先へ。
竜の神の領域へ向かって。




