サフィの苦悩
竜が倒れたあと。
焼け焦げた森には、再び静けさが戻っていた。
煙がゆっくりと空へ上がっていく。
ルークは剣についた血を布で拭いていた。
セリアは矢を回収している。
ガルドは盾を地面に立て、傷を確かめていた。
その少し離れた場所。
サフィはまだうつむいたまま立っていた。
拳を握りしめている。
ホープが近づく。
「……サフィ」
サフィは顔を上げない。
小さく言う。
「ごめん」
「私」
「何もできなかった」
その声は、さっきまでの強気な調子とは違っていた。
ホープは少しだけ振り返る。
ルークたちを見る。
「ちょっと」
三人に声をかけた。
「サフィと二人で話していい?」
ルークはすぐに理解したようだった。
「分かった」
剣を軽く掲げる。
「俺たちは武器の手入れしてる」
ガルドも肩を回す。
「竜の鱗で刃が傷んでる」
セリアも静かに言う。
「近くにいるから」
三人は少し離れた場所へ移動した。
それぞれ武器を手入れしながら、周囲を警戒している。
ホープはサフィを見る。
「……座ろうか」
近くの岩に腰を下ろした。
サフィも少し迷ってから、その隣に座る。
しばらく沈黙が続いた。
風が焼けた森を抜けていく。
やがてホープが口を開いた。
「俺もさ」
サフィが少し顔を上げる。
ホープは空を見ながら言った。
「最初は何もできなかった」
サフィが小さく眉を動かす。
ホープは続ける。
「十歳のとき」
「初めて神に襲われかけた」
少し遠くを見る。
「村が」
サフィは黙って聞いていた。
ホープは静かに言う。
「そのとき俺は」
「ただ見てることしかできなかった」
「先代の闘神」
「育ての父」
「他の騎士たち」
「みんな戦ってた」
ホープは少し笑った。
「俺は立って見てるだけ」
サフィは何も言わない。
ホープは続ける。
「騎士になるための訓練はしてた」
「小さい頃から」
「でも」
少し間を置く。
「いざその場になると」
「体が動かなかった」
風が静かに吹く。
ホープの声は落ち着いていた。
「十二歳のとき神の襲撃があった」
「そのとき」
少し言葉を探す。
「育ての親が目の前で」
「……死んだ」
サフィの指が少し震える。
ホープは続けた。
「そのときも俺は何もできなかった」
しばらく沈黙が流れる。
ホープはゆっくり言った。
「だから」
サフィを見る。
「気にしなくていい」
「最初はみんなそうだよ」
サフィはうつむいたままだった。
小さく言う。
「でも私は」
拳を握る。
「神の子なのに」
声が少し震える。
「それなのに」
ホープはうなずいた。
「うん、気持ちは分かる」
サフィが少し顔を上げる。
ホープは続ける。
「でも少しずつだよ」
「最初から全部できる人なんていない」
サフィはしばらく黙っていた。
そして静かに聞く。
「……ホープ」
「戦うの」
少し迷って言う。
「辛くないの?」
ホープは少し笑った。
「辛いよ」
迷いなく答える。
「すごく」
風が静かに吹く。
ホープは少し黙る。
そして。
ゆっくり口を開いた。
「……実はさ」
声が少しだけ重くなる。
「俺」
「昔」
遠くを見る。
「どうしても戦わなきゃいけない相手がいた」
ホープの表情が、少しだけ変わった。




