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Ⅶ 地味な能力

 

「オーティス・アレクサンダー。君の魔法能力は吸収だ。」


「え、きゅ、吸収??」


 この国では7つになると魔法能力とその魔法量の調査が行われ、どの魔力に適性があるのか判明すると共に国に把握されるのだった。

 多くは炎や水、風と言った自然の力を借りる能力でそれを用いて攻撃魔法や防御魔法を使ったり、珍しい所では光の力を用いた治癒魔法なども存在した。

 オーティスの父は雷、兄や母は風の能力を持ち皆攻撃魔法の使い手だった。攻撃魔法を持つ貴族の男性たちは一度は騎士団や魔法師団に入団するのが一般的でオーティスの兄も攻撃魔法の能力を生かして貴族学校を卒業したら一度騎士団に入団する事にしたようだった。

 オーティス自身も攻撃魔法に適性があるならば、将来は騎士団に入団してその身を立てられるようにするのだ…と思っていた。なぜならば、オーティスは平凡な伯爵家の次男だからである。このままいけぼ兄が伯爵家の家督を継ぐ。大貴族であれば他にいくつか爵位を持っている事もあるが、オーティスの生家アレクサンダー家は違った。また入婿になって他家を継げるほど令嬢から求められる人間ではないと思っていた。容姿は黒髪に灰色の瞳だし、顔立ちも悪くはないがとにかく地味だと自覚してきた。

 つまり、7つにして人生に行き詰ってしまったのだった。


「ま、まあ幸い魔法量はなかなか多いようだぞ!!地味だけどな!!」


 魔力の鑑定をしてくれた魔法師に励まされて、トボトボと家に帰り、両親や兄に慰められたのを覚えている。


 それから時は経ち、オーティスは9歳になった。その年もその前の年も例年のように魔法の鑑定が行われ、優れた能力の持ち主が見出されたそうだ。

 オーティスはと言えば、吸収の能力は地味ではあるものの大変希少で重要視された能力であると分かった。事実、オーティスの前後5年は同じ能力持ちは現れなかった。吸収は魔法制御の一部で他には黒い魔法や呪いを解く解術の能力や他者の魔法能力をコントロールしてしまう制御の能力が魔法制御の能力に括られていた。

 極めれば食いっぱぐれる事はないと貴族学校入学前から勉強に励んでいたある日、オーティスの父は国王陛下に呼び出しをされた。


 繰り返すがオーティスの生家は旧家だが、特に特筆する所のない平々凡々の伯爵家である。国内の全貴族が大集合する年一回の晩餐会で国王陛下に挨拶するのがやっとだ。

 それなのにいきなりの呼び出しでアタフタと正装をして登城する父を家族みんなで心配しながら見送った。

 そしてその日の夜。オーティスは硬い表情の父に呼び出されたのだった。


「オーティス、話がある。」


 父の書斎に呼び出され、ソファーに座らせられた。向かいには父と事情を分かっているような表情をした母と兄がいた。


「国王陛下よりお前に縁談を賜った。」


「え、縁談?」


 父の思いの寄らない発言にオーティスは目を白黒とさせた。オーティスはわずが9歳。王族の婚約でさえ12.3歳前後から婚約者の選定を始める事が多いというのにあまりにも早かった。


「そんな、家督を継ぐ兄上の縁談もまだなのに先に私なんて…」


「オーティス、私の事は気にしないで。」


 兄はちょっと困ったように笑った。そして国王陛下直々の縁談をアレクサンダー家が断われるはずもない事は明らかった。


「相手のご令嬢はガラニス伯爵家の長女アイリーン嬢だ。」


「ええええ??」


「しかも入婿。」


「ええええええええ??!!」


「絶世の美少女よ!!良かったわねー」


「兄はうらやましいぞ!!」


 父は複雑そうな表情をしていたが、母と兄はオーティスの未来は安泰だと喜んでいるようだった。

 しかし、ガラニス家のご令嬢と言えばいつの時代もその美貌で社交界の華として世間を賑わせる逸材だ。アイリーン嬢はまだ社交界に出ていないのでアレクサンダー家の人間は会った事はないが美少女である事は間違えない。しかし、そんな引く手数多の令嬢を有するガラニス家が特に財産や軍事力を持つわけでもない伯爵の次男を、もっと言えば少し地味な容姿と特別地味な能力持ちのオーティスを婿として迎えてくれるのだろうか?


「オーティス、大事な話をしよう。全員この話は他言無用だぞ。」


 父は真剣な表情で口を開き、はしゃぐ母と兄を諌めてお茶を運んできた侍女に礼をいってから他人払いをした。


「何故ガラニス家のご令嬢との縁談を陛下から賜ったのか不思議に思っているのではないか?」


 これには母も兄も、そしてオーティスも大きく何度も頷く。


「先日、今年度の魔法鑑定が行われた。そこでアイリーン嬢には特別強力な『魅了』という能力が備わっている事が分かった。」


「魅了…魅了という能力を初めて聞きました。」


「それはそうだろう。国王陛下の知る限り、魅了という能力が現れるのはガラニス家の令嬢だけとの事だ。この能力は他者を、特に男性を魅了してしまい正常な判断を出来ないようにしてしまうことがあるそうだ。」


「まあ、なんて羨ましい能力なのかしら…」


 母は呑気にそう笑っているが、それはそれで面倒な能力である事は間違えない。幼いオーティスにはまだ男女の機微に疎かったが、それでも何となく分かるのだった。


「ガラニス家の令嬢はその能力を活かして外交の際に重用される。魅了によって他国との交渉を有利に進めることが出来るようになるからだ。」


 そこまで言うと父はお茶を口に含んだ。オーティスもそれに倣って口をつける。なんだかとても喉が渇いていた。


「魅了の能力は自分自身でコントロール出来ない…だからその魔力が発現する前に年齢の近しい者で最も魔法制御に秀でた令息と婚約するのが伝統なのだそうだ。」


「それが、オーティスという事なのですね?」


「この国の安定の為にもこの婚約は断る事は出来ないだろう。とはいえ、オーティスにとって伯爵家に婿に入る事は悪い話ではないはずだ。2週間後、先方と会う予定になっている。」


「分かりました。」


 オーティスは素直に頷く。父は何か言いたそうな顔をしていた。しかし、ゆっくり左右に首を振った。


「気の合う令嬢だと良いな。」


「はい、父上。」


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