Ⅺ 貴方なんて好きじゃない
ソフィアは身体が自然と動き、エイラン殿下の前に立った。殿下は壇上からちょうど降りきったところだった。
「…なんだ?」
「アイリーン様は諦めて下さいと以前申し上げました」
「ドゥーカス公爵令嬢、見苦しいぞ」
「アイリーン様はアレクサンダー様を愛しておいでですよ」
エイランはフンっと鼻を鳴らした。
「彼女は私の妃になる。私は彼女を愛しているんだ。アレクサンダー伯爵家との婚約は破棄させよう。」
「ですが…」
「不敬罪でお前も捕らえるぞ。私は王子だ、彼女だってあんな男の妻になるより妃になりたいはずだ」
来賓の国王陛下をチラリと見ると眉に力を入れて怒っているように見える。陛下は王太子殿下に何かを指示したように見えた。そして王太子殿下も頷くと席を離れた。
そのまま父である公爵に目線を動かす。あまり感情を表に出していないが、立派な口髭が僅かにピクピク動いている。ソフィアには分かる。今何を言っても父は許してくれる…!!
「殿下、私からの最後の諌言です。」
「なに…?」
「殿下はアイリーン様を愛していると仰いますが、それならアイリーン様に迷惑をかけないで下さい。彼女は殿下を愛してなどいません」
「「「!!!!」」」
エイラン殿下はもちろん、周りの全員から衝撃を受けた表情で見られる。周囲の人間から受けるのは「言っちまった!!!」と言う反応だ。
「彼女に恋をするのは勝手ですが、断っているのに執拗に気持ちを押し付けるのはただの傲慢です。権力を盾に嫌がる相手に関係を迫るのは寧ろ脅迫ですよ。そもそも皆が皆、王子と結婚したいと思ってなんていません。私だってそうです。殿下と婚約したいだなんて、思った事はございません!!!」
ソフィアは止められる前に一気に言い切り、肩でハァハァと息をした。
最後は公爵令嬢らしからぬ感情爆発、寧ろ八つ当たりのようになってしまったが後悔はしていない。
対する殿下は呆然としている。普段は冷静沈着、完璧令嬢と言われるソフィアの暴言に驚いているようだ。
「お、お前は…いや、貴方は私の事が好きで彼女との中を邪魔しようとしていたのではないのか?」
「いえ、全く。殿下に婚約者としての情はあれど、色恋の気持ちはありませんよ。露ほども」
「な、な、な、」
殿下はブルブルと急に震え出した。そして殿下専属の騎士たちに指示を出した。
「ドゥーカス公爵令嬢を捕らえろ」
婚約者として顔見知りだった騎士が心無しか申し訳無さそうにソフィアを囲む。
ソフィアはずっと後悔していた。どうして第二王子の婚約者になってしまったのだろう、と。
幼い頃から才女だと持て囃されてきた。自分の才能をひけらかしすぎたのかもしれない。5つ上の兄が非常に優秀だった事もあり、周りから認めれたい気持ちもあった。
最初は生家の為にも王子の婚約者となれた事が誇らしかった。王国の為に賢き妃となり、王族を支えようと決め、実際そのように努力してきた。
けれど、その努力は報われただろうか?皆が敬遠していた役割を体良く押付けられたような気さえしている。能ある鷹なのだから爪を隠せば良かった。ついそう思うようになってしまった自分もそう思わせたエイラン殿下も嫌いだ。
その上婚約者となってからはその家格の高さも含めて、パーティーでも学校でも必要以上に持ち上げられた。どのパーティーやお茶会に行っても注目を集め、一挙手一投足を監視され、気を抜けなかった。
…だから。ずるいけれどアイリーンが同じ場にいると安心した。
彼女のカリスマ性を見せつけられる事になるけれど、皆の目が彼女に向くからだ。
学校に入ると彼女が見た目の華やかさとは異なり、誠実で真面目な人物だと知った。ソフィアと同じだと思った。いつも一生懸命で、いつも真剣に向き合っている。初めて友と思える人に出会えた。
理不尽に裁かれようとしている学友の婚約者を助けたかった。けれどソフィアは一介の公爵令嬢に過ぎない。
「アイリーン様とオーティス様を幸せになってほしいのに」
気がつけば、ソフィアもいつの間にかアイリーンの魅了にかかってしまったのかもしれなかった。




