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Ⅹ 王子の言い分

 

 音楽隊の演奏が流れ、皆の拍手を受けながら卒業生が講堂に入場する。

 講堂の後方には保護者や関係者、前方の来賓席には貴族学校らしく国王陛下やエイラン殿下の兄、皇太子殿下が座っている。


 アイリーンも入場すると花道の途中で両親と婚約者のオーティスも座って拍手しているのが見えた。

 アイリーンが気恥ずかしげに微笑むと3人も笑みを返してくれた。後から聞いた話によると3人の近くに居た2人の男性がクラクラとして一瞬気を失ったらしい。


 卒業生が全員入場して、席に着く。その後は式次第に沿って粛々と卒業式は進んでいった。


 学長や来賓の挨拶等は毎年同じようなもので滞りなく終わった。

 圧巻だったのは在校生の送辞に対してソフィア様が行った答辞だった。ソフィア様の答辞は王道路線ではあるものの、言葉選びが非常に上手で随所にソフィア様のセンスが光っていた。 ソフィア様の知性が全面に押し出されているような内容だった。


「ほぅ。」


 つい感嘆の声が出る。惚れ惚れしてしまう。さすがソフィア様。自分には決して出来ないな、とアイリーンは思っていた。そしてこの後のエイラン殿下のスピーチは大丈夫かと自分自身を棚に上げて少し心配になった。


 ソフィア様の答辞の直後、司会者によって殿下が紹介されて壇上に上がった。


『本日は盛大な卒業式を催していただいたことに心より御礼申し上げます…」


 殿下のスピーチは卒業式の挨拶のテンプレートのような内容だった。教育係がその昔、卒業に際し作った挨拶文のようだった。

 それでも殿下はやや傲慢そうに見えるものの、堂々とスピーチをしていた。アイリーンはどちらかと言うと自分に自信を持てないタイプなので殿下を羨ましいな、と思いながら聞いていた。

 ソフィア様の心配はなんのその。意外にもエイラン殿下は卒なくスピーチをこないしていた。

 アイリーンもスピーチと共に貴族学校での思い出に思いを馳せていた。しかしスピーチも終盤に差し掛かった頃、何だか様子が変わってきた。


『さて、未来を切り開く我々には悪しき伝統や習慣を廃する義務があります。その最たる例は婚姻ではないでしょうか。婚姻について理解も出来ない幼き頃から当主の一存によって令息令嬢は望まない結婚を強いられる。これは我が国の悪しき習慣に他なりません。』


 殿下の言っている事は間違っていない。結婚は互いの気持ちを大切にするべきであり、今の貴族制度は近いうちに撤廃すべきと言う先進的は人たちもいる。

 しかし卒業式のスピーチにしては大分横道に逸れているように感じる。


『例えばこの私について述べさせて頂きますと、ドゥーカス公爵令嬢と婚約していますが、父である国王陛下が決めたことで彼女に恋愛感情を抱いた事はありません。』


 スピーチを聞いていた女子生徒達の顔が真っ青になる。この様な晴れの場で首席として先程答辞を行ったソフィア様を、いや、公爵令嬢を、更に言えば1人の人間を晒し者にして良い訳が無い。

 アイリーンは爵位に隔たりはあるものの親しい友人として接してくれたソフィア様の様子を他の生徒の頭越しに覗き見る。ソフィア様は殿下に嫌がらせのような事を言われても真っ直ぐに前を見て微動だにしない。

 フツフツとした怒りが巻き起こる。しかし、ここで暴れてもソフィア様の迷惑がかかるので平常心を保つべく深呼吸をした。


『我々の婚約は何年も前に行われています。王家と公爵家の当主の一存によって。』


 来賓席に座る国王陛下は表情こそ変えないが、側近に何か合図を送った。

 その合図を受けて何人かの教職員が殿下に近寄ってスピーチを止めさせようとする。しかし殿下はスピーチを決してやめない。


『アイリーン・ガラニス伯爵令嬢、起立してください。』


「…」


『アイリーン・ガラニス伯爵令嬢?』


「…え?私?」


 急に名前が出てくると思わず、完全に聞き逃していた。青天の霹靂ではあったものの、王族の命令に背く訳にもいかず、のろのろと立ち上がった。


『彼女もまた被害者の1人です。私はアイリーン・ガラニス伯爵令嬢を伴侶にしたいと考えています。しかし、伯爵夫妻は彼女に暗愚な令息をあてがい、婚姻を強制しているのです。』


「そんなっ」


 アイリーンの周囲も困惑したように殿下とアイリーンを見つめる。彼等の多くを半年前の婚約披露の場に招待しているのだ。皆の前で間違えなく、はっきりと、それは清々しいまでにアイリーンはお断りしているのだ。


『私の想い人を囲おうとする逆賊め!伯爵夫妻とアレクサンダー伯爵家の令息を捕らえろ』


 エイラン殿下専属の騎士団がいつの間にやら両親とオーティスを囲んでいた。


『オーティス・アレクサンダー。特にお前の罪は深い。お前はアイリーンと並び立つに相応しくない。家格は大したことない、勉学とて凡庸、そして地味な容姿。とにかく地味。』


 殿下はついに壇上から降りてオーティスの方に向かい始めた。


「どうして…」


 アイリーンはどう殿下に説明すればオーティスへの気持ちが伝わるのか分からずに困惑した。

 言葉にしなければ伝わらないのに、上手く言葉に出来ずもどかしい。

 ソフィア様のようにきちんと言葉にする事が出来たなら…と悔やんでも悔やみきれない。


 そんな時、殿下の前に立ち塞がったのはやはり才女ソフィア・ドゥーカス公爵令嬢だった。


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