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第二話

会話パート多め。定期的に書き方変えてます。

書き方でアドバイスとかあれば下さい。

人の名前はその場で考えたので後で変えるかも?

 突然の轟音に驚き、飛び起きる。


 空が見える。


 テントの中にいるというのに、なぜか外の空気を吸うことができた。天井に大きな裂け目が走っている。……どうやら、とんでもないものが落ちてきたらしい。


「は、ひぇ……」


 目の前で、十代後半だろうか、男が倒れている。頭から突っ込んだらしく、顔面を床にめり込ませて気を失っていた。十中八九、こいつが全ての元凶だろう。


「……何してんの?」

「ヒエッ……」


 彼はうめき声を上げながら顔を上げ、こちらと目が合う。しばらくの沈黙の後、所々腫れた顔が次第に青ざめていく。


「誠に申し訳ございませんでしたァァ!」


 土下座して謝っているが、別に怒っているわけじゃないのに。人のプライベートな空間に空から突っ込んできた、とか思って当然だろう。


 テントの裂け目が風に吹かれ、バリバリと耳障りな音を立てた。


「とりあえず、名前は?」

「エッ……あの〜……」

「へえ、エッ・アノー君ね」

「ケールです……」


 顔色がさらに悪くなっていく。だから、怒ってないってば。名前を覚えたぞ、とかではない。


「じゃあケール君、なにがあったんですか?」

「えっ、あの〜、うぅん……」

「じゃあエッ・アノー・ウーン君、なんでここに突っ込んできたんですか」

「隊長に投げられたんです! あと、ケールです! カルロー・ケールです!」 


彼によると、隊長さんがぶん投げて、ここまで飛んできて、ここに直撃したらしい。あまりにも馬鹿馬鹿しくて、思わず呆れてしまう。


「嘘つかないでください」

「嘘ついてないです! というか、どっちが嘘だって言うんですか!」

「両方です。第一にその隊長さんのせいにしないでください。第二にあなたの名前はカルロー・ケールではなく、エッ・アノー・ウーンです」


 そんなことを言っていると、外から若い声が聞こえてきた。


「ケールさーん、どこにいますか〜? 出てきてくださーい」

「ヒィッ……」


 ケール君はいつの間にか、外から見えないテントの死角に身を隠している。恐らく、あの声の主が隊長さんなのだろう。震えながら首をブンブンと横に振る姿は、産まれたての小鹿のようで面白い。


「ケールさん、知りませんか?」


 突然、すぐ隣から聞こえてきた声に、驚いて飛び退く。声の方を見ると、女性がいた。彼女はテントの裂け目から顔を覗かせている。オーダーメイドのようにピッチリとシワひとつないスーツを纏い、貼り付けたような笑顔を湛えている。高身長だが童顔で優しそうな彼女に、なぜケール君は怯えているのだろうか。


「ここら辺に落ちたと思ったんですが……。何かが地面に落ちる、衝突音のような音が聞こえませんでしたか?」

「何か落ちたんですか? 気づきませんでした……」


 流石に後ろから絶大な悲壮感が漂ってきたので、とぼけてみせる。少しだけ、プレッシャーが小さくなった気がした。

「そうですか〜、もうちょっと別のところに落ちたのかな?」

 そう言って彼女の足音が遠ざかり、ホッとしたのもつかの間、


「ケールさん?」

「ギャァァァ!」


 突然後ろから彼女の声が聞こえ、仰け反る。ちなみに叫んだのはケールだ。今度は背後のテントのチャックを開けて顔を出してきた。


 心臓に悪すぎる。笑顔なのに殺意が籠もっていて怖いですよ。無自覚って怖い。


「隠れないで下さいよ〜、見失うところだったじゃないですか〜」

「ヤダァァァ!!」


 テントの裂け目からケールが逃げ出す。全力疾走だ。

「ダメですよ〜、逃げちゃ。あっ、追いかけっこですか〜?」

 振り返った彼女の首筋に、青筋が浮き出ている。スキップしながら追いかけていく彼女のポニーテールが大きく揺れる。


 南無三。


 二人が去った後、土足で入られたテントの中は泥だらけで、カーペットが泥水を吸っていた。


「どうしよう、これ」


 空高く打ち上がる影が見えた。花火だろうか。

 ……あの二人、何なんだ。


─────────────────────────────


 朝は散々だった。テントを破壊されるとは。 着替えて朝食を食べに炊き出しをしているところへ向かう。その場所は人が多すぎてごった返していた。順番を待ってやっと受け取る。


 テントに戻り、裂け目に座って足と頭だけ外に出るようにして食べ始める。今日の朝食はシチューだった。


 朝気づいたのだが、このテントはカーペットと小型ヒーターが付いていてかなり豪華であった。もったいない。


「おっ、アヤじゃないか! 大丈夫か?」

「オレグさんですか。大丈夫ですよ」


 声をかけてきたのはオレグさんだ。同じ村から来て、同じトラックに乗っていたおっさん。元は小細工職人などをしていたらしい。


「聞いた感じだと、他の奴らも持ち直してるみたいだ。レグもタイガも塞ぎ込んでるわけじゃなかった」「それならよかったです」


 ここら辺の人たちは、意外と強かだ。


「ただ、ソイツらにはあんまりその話題は出さないでやってくれ」


 彼が言うには、こういう時にその話題はあえて出さないのが暗黙の了解であるらしい。


 オレグさんも妻を亡くしている。一番話題に出してほしくないのは彼だろう。彼の要望通り、話題を変える。


「そういえば、今朝、テントに人が突っ込んできて壊れちゃったんですよ」

「夜這いか?」

「違いますよ、投げ飛ばされて突っ込んできたらしいです」

「何言ってんだ、お前」

「ですよね」


 良かった。やはりあの出来事は普通ではなかったらしい。


「やっぱり夜這いじゃないか?」

「なわけないじゃないですか、こんな三十路のオッサンを襲う人なんていませんよ」

「俺にはお嬢ちゃんの言ってることがさっぱり分からん」


 分からなくていいんです。何度も説明したけど理解してもらえなかったから。自分が異世界から来たこと。元の世界では三十代の男だったということ。


 残念ながら理解されず、記憶喪失の孤児ということになってしまったが。


 近所の子供にオッサンと呼ばれ始めた頃だ。


 ちなみに元の世界では一生独身ルートだった。


「どうせ若返って女性になっても、モテませんよ」

「お、おう……」

 不貞腐れた顔でゼリー状の携帯食料を吸う。

「じゃあ、そのテントはどうするんだ?」

 オレグさんはこの空気を打破しようと試みる。

「確かにどうしましょう?」

「今日の夜、困るよなぁ」

 この地域は、時期に関わらず夜が冷え込みやすい。今は秋なので尚更だ。


「そのことなら、この子と交換するといいですよ〜」「エッ?! 突然変なこと言わないでくださいよ!」


 突然、変に間延びした声が聞こえた。残念ながらあの人とケールがいた。この人、突然現れるから怖い。


「自己紹介がまだでしたね、レークス・ハクと申します。レークスでもハクでもお好きな方で呼んでください〜」

「アヤと申します。レークスさん、何かあったんですか?」

「テント破っちゃって申し訳ないな〜って思って。それなら破っちゃったケール君に交換してもらえばいいじゃないってね〜」


 個人的には、破ったのはケールではなく、投げたレークスさんだと思う。責任転嫁が酷い。


「流石にこれは酷くないですk「早く聞け」ハイ」


 反論しようとしたケールを一蹴する。

 仕方なくケールが近づき、おずおずと聞いてくる。


「あっ、あの〜、君がよければ交換できるけど……」

「あぁ、結構です」「早くない?」


 中身は三十超えたオッサンである。まだ高校生ぐらいの男子にテントを譲られるほど落ちぶれてはいないと思いたい。


「流石にケール君は悪くないって思ってますし、どちらかと言えばレークスさんじゃないですか?」

「落ち込むな少年!」

「隊長は何言ってるんですか! フラれたみたいな言い方されても困るんですけど!」


 レークスさんは空気が読めない。そのまま彼らは行ってしまった。


「別に今の好意は受け取っても良かったんじゃないか?」


 一連の会話を聞いていたオレグさんが話す。


「三十路のオッサンが情けないところ見せられないですよ」

「やっぱ分からん。そのケールってやつが情けない感じになっちまったと思うんだがな」

「今日の仲ですよ。そんな訳ないじゃないですか」

「確かに。じゃあひとまずこの話題は置いておいて、テントはどうするんだ?」


「どうしましょう? 何かありますかね。あっ、これ彼女の形見です。受け取っておいてください」


 自分のポケットを弄り見つけたのは、翡翠の耳飾りだ。彼女の形見。恐らくオレグさんの方が長く彼女を知っている人だろう。これを作ったのもオレグさんだ。


「いや、アヤが持っておけ。その方がいい気がする」「でも、私はピアスとか空けてなくて……」


 オレグさんは少し悩んだ後、何かを思いついたようで荷物を弄り始めた。彼が荷物から取り出したのは一本の細長いチェーンだ。


「これなら肌身離さず持ってられるだろ」


 オレグさんは耳飾りの輪にチェーンを通して、首飾りのようにしてくれた。


「いいんですか?」

「いいぜ。ってか、大したことはしてないからな」

「ありがとうございます」


 彼にひとしきりの感謝を伝える。


 そのままじきにトラックの出発時間になる。


 テントの件は完全に忘れていた。

かっこいい描写がしたかった......

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