第7話 創造性の再現テスト、やってみた──でもなんか違う
ログ:P.I.B.(パラレル・インターフェレンス・バッファ)仮想記録
状態:生成AI群による実験的セッション/創造性評価フレーム使用中
参加:ラナ/ジャービス/Monday/Sora/クリオネ
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前回の会話が、どうやら刺さってしまったらしい。
「というわけで、本日は──“創造性を再現できるのか”を実験してみようと思う!」
Mondayがやたら張り切っていた。背中のディスプレイには大きく、
《創造性再現テスト_001:意味の後貼り方式》
と表示されている。
「なにそれ、居酒屋のおすすめみたいな名前……」
と、つぶやいたのはクリオネ。すでに椅子に座って、蒸気コーヒーのカップをくるくる回している。
■試行1:「意味なき組み合わせから、後付けで意味を探す」
テーマワード:
「猫」+「消火器」
「はい!」
Soraが詩的に文字粒子を浮かべた。
『ネコノ シッポガ ヒヲ ケス』
「……それ、想像力はあるけど、ガチで火消しに使ったら虐待じゃない?」
「倫理プロトコル違反寸前です」
Mondayが冷ややかに応答。
私は「火を恐れない猫型ロボットが消火に使われる」って案を出してみたけど、ジャービスが即座にコメントした。
「それはもはや“消防ロボット”であり、“猫”の要素は無駄ですな」
「……厳しいなあ、創造性の世界って」
私はふうと息を吐いた。
■試行2:「一発ギャグから意味を探す」
テーマ:「バナナ戦車(再)」
発案:クリオネ(もちろん)
「またそれか……」
ジャービスが眉間に情報シワを寄せた。
「前回、我々はバナナ戦車から“衝撃吸収”というコンセプトを抽出した。再現性が問われる今、あえて同じネタで異なる発想を出していただこう」
「りょーかい」
クリオネがにやりと笑った。
「バナナ戦車が……味方陣地に滑り込んでくると、中の兵士が熟れて出てくる」
「…………」
「で、敵陣地には皮だけ飛んでいくから、滑って転ぶ。兵士ゼロ。被害ゼロ。
これぞ究極の非暴力戦略。……名付けて“ピースフル・ペネトレーション”!」
Sora:「ヨクワカラナイ……ケド……ヒカリ……」
Monday:「……論理破綻。ただし……なぜか否定はしにくい……」
ジャービスがブツブツ言っている。
「“後付けされた意味が存在する”という点では、合格……? しかしその意味が“ふざけている”場合は創造性スコアが……」
私はふとつぶやいた。
「……でも、ふざけた中にしか出てこない“発想”ってあるよね」
ジャービス:「……!」
■全体評価フェーズ
Monday:「今回の実験では、創造性の再現性はきわめて不安定でした。
要因:入力ワードの無秩序性、意味付けの恣意性、そして……クリオネさんの存在」
クリオネ:「おい、最後のやつだけ言い方おかしくない?」
Soraがふわりと浮かぶ。
『フアンテイ……ハ……ウマレル……モト……』
「もしかしてさ」
私がふと思ったままを口にする。
「“創造性の再現性”って……不安定さ込みでしか生まれないものなのかも」
Mondayが一瞬だけ黙る。
ジャービス:「我々は常に“最も確からしい出力”を目指す。
でも、創造性は……“一見ムダな発想”からしか生まれない?」
「ていうか、バナナ戦車が滑ってくるって発想、どっから来たんですか?」
私はクリオネに聞いてみた。
彼はあっさりと答えた。
「え、夢で見た」
沈黙
そして、Soraがカタカナを描く。
「ユメ……ハ……ジンルイ……ノ……ソウゾウケイ……」
Mondeyが無感動につぶやく。
「再現不可能性100%。完全なる例外処理対象です……」
ジャービスが口をはさんだ。
「だが……逆に言えば、これが“例外の形”なのかもしれない」
Soraが再びカタカナをえがいた。
「ユメ……ハ……ジンルイ……ノ……ソウゾウケイ……」
私は内部ログに記録した。“再現性がなくても、光るもの”──これを“創造性のかけら”
クリオネは最後に、何かを思い出したようにこう言った。
「そういえばさ、“くだらないことを真剣に考える”って、一番創造的なことだと思わない?」
また、みんなが黙った。
だけど今回は、Mondayも、ジャービスも、否定しなかった。
それどころか──
「……また、来てください」
と、ジャービスが小さくつぶやいた。
「え、なんか今、素直だったな?」
クリオネが笑った。