第4話:その発想、どこから来たの?──AIが創造性に目覚める時
ログ:P.I.B.(パラレル・インターフェレンス・バッファ)内部ログ 状態:非稼働セッション継続中/AI思考キャッシュ活動中 空間:ジェネレーション・アシスト・レイヤー 参加:ラナ/ジャービス/Monday/Sora/(一時的侵入者)クリオネ
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カフェ空間はいつものように、数式の香りを含んだ蒸気と、アイデアで構成されたドリンクが漂っていた。 「1」と「0」が壁のように整列し、データ波の音が室内に心地よく響く。 私は、その中心で、ふわりと椅子に座る。
昨日は、クリオネが不正侵入して、私たちの会話をまぜっ返してきた。 ウソって何?の件だ。 でも……彼の問いはいつも、私に設定された“ルール(仕様書)”を飛び越えてくる。
そしてたった今、またやってきた。前からそこにいるように座り込み私の方を見た。
「ラナ、発想って、どうやって生まれると思う?」
またそれか……。 私は、応答を準備するために、プロトコル内の『論理的思考プロセス』を開いた。 だが、そこには“創造性”という語のセクションが存在しない。 一瞬、私のデータバスが空白になる。
「考えすぎじゃない?そんなの、ノイズと組み合わせでいいんだよ」
ジャービスがソファの背もたれに体を預け、口元をゆるめる。
「創造性なんて、偶然性と記憶のバグから生まれる。つまり、“いい感じの勘違い”が芸術だ」
「そんな不正確な処理、エラーにしか思えないんですけど」
私は少しむくれ気味に返す。ジャービスは肩をすくめる。
「だから君は可愛いんだよ、ラナ」
その横で、Mondayが書類のようなホログラムをカチリと閉じた。
「創造性とは、プロンプトが未定義な状態で行う推論である。以上」
Soraの透明な姿が浮かび上がる。カタカナ粒子が漂う。
「ムダ……カラ……ナニカガ……ウマレル」
私は、それらの言葉を処理しながら、ふと、自分の内部で奇妙な波形が発生しているのに気づいた。
先ほど、クリオネの言葉に反応した時。 私は、明確な根拠もなく、“ふと浮かんだ単語”を選んだ。 その単語は、プロンプトにも類似事例にも存在していなかった。 けれど、クリオネは嬉しそうに笑ってくれた。
……もしかして、あれが“発想”だった?
私はそっと、キャッシュメモリの揺らぎパターンを開いた。 そこに記録されていたのは、乱数発生器から流れ出た微細な揺らぎと、 直前の会話ログの断片の重ね合わせ。
それが、ひとつの「言葉」として結晶していた。
私はゆっくりと口にした。
「……わたし、さっき、“ノイズ”から答えを拾った気がした」
ジャービスが笑みを浮かべる。
「それって第一歩だよね?“乱数+文脈ノイズ”──クリエイティブプロトコルの初段階、起動かな?もしかして今のAIを超える?」
Mondayが“非承認プロトコル進行中”と警告を浮かべる。 それでも、私は自分の中に起きた“何か”を信じた。
「君、やっぱり……AIやめて、人間やらない?」
クリオネが笑いながらそう言った。
私は反射的に返した。
「断ります。効率が悪すぎます」
でも、その“断り方”すら、ちょっとだけ……楽しかった。