第72話 プロポーズ
ベランダで、彼は空を見上げていた。
私もベランダに出て、置いてあるチェアに腰掛ける。空にはあの告白の日のように、一面に降り注ぐような星が美しくきらめいていた。
ふとこっちを振り返った彼は静かに、
「結婚しようって俺が言う。そしたらえりかがうんって答える。そんな未来、どう思う?」
と告げた。
「今、過去になったわ。あなたに出会ったときから、結婚はあなたとするって決めていたの。」
そうして、夜が更けていく。二人だけの、甘い夜。
翌日、彼を空港へ見送りにいく。
「そういえば、飛行機と船どっち使うことが多いの?」
ちなみに、私が旅行したときは飛行機を使った。
「飛行機が多いかな。やっぱり速いしね。でも、東京を離れたときは船だったよ。
もうすぐで五島に着くタイミングでハチクマっていう鷹のなかまが1羽で悠然と飛んでいて、俺も一人で頑張ろうって思った。」
「よく頑張ったね。もう、一人にはさせないから。」
「えりかこそ、東京で闘ってるのすごいと思う。俺はこっちでは一人じゃやっていけないわ。それこそ、ユリカモメみたいに仲間は多ければ多いほどいいね。」
保安検査場まで付いていくと言ったけど、手を降って目立ってもいけないから手前のロビーで別れる。
「秋に一度、そっちに行くわ。今度こそ案内して。」
「了解。またプラン考えなきゃ。」
「ううん。あのプランがいいの。私の一人旅での武勇伝、聞いてもらわなきゃ。」
「分かった。俺も次の冬休みには一度帰ってくるから、内見とかまたしよう。結構お任せしちゃうことにはなるけど。」
「まかせて。もう20歳の子どもじゃないから。
それと、年末か年始にご実家お邪魔してもいい?ご挨拶させて。」
「うん。バタバタするけど、お願い。親にはほとんど何も言ってなくて、急に言って心臓止まったらあれだから小出しに伝えとくわ。
またお義父さんのご両親にも、お会いする機会があるといいな。」
夕を見送った後、空港のデッキに出る。誰かが乗る飛行機が飛び立つのを見るのは、案外初めてかもしれない。電車とか車なら顔が見えるけど、さすがに飛行機は無理ね。
手持ち無沙汰なので、手を合わせながら安全なフライトを祈る。
見えなくなるまで見届けて、その足で稽古場へと向かう。私もちょっとお休みをもらったからその分また頑張らなくっちゃ。
そのためのエネルギーは、満タンになっていた。




