第71話 星の数ほど
ピンポーン。ファミリー向けマンションの一室のインターホンを押す。
「はーい。」
音がしたと思ったらすぐに扉が開く。
「いらっしゃい。久しぶりー!入って入って!あ、先輩もお久しぶりです!どうぞどうぞ!」
すやすやと眠る息子さんを抱っこした旦那さんも玄関で出迎えてくれる。
「お二人で来たってことは、そういうことなんだよね?」
という質問に、彼と見合って頷く。
「長かったけど、おめでとう。
結婚式来てもらってあのときにくっついてほしかったけど、ようやくって感じね。自分のことのように、私たちもうれしく思うわ。」
「あのときもありがとうね。素敵な式だったし。」
そのときの写真が、リビングに飾られてある。集合写真の中で、当時の距離感を物語るように両端に遠く離れて写る私たち。
「あのとき再会していなければ、今の私たちはいない。長い時間かかったけど、そのどれか1つが欠けても今隣にいられないんじゃないかってくらい、私たちにとっては大切な一瞬一瞬なの。
それに早矢香は数少ない共通の知り合いだったから、それぞれから話聞かされて大変だったよね?
感謝してる。早矢香がいてくれたから、今の私たちがいるわ。」
「なんたって初デートから見てるからね。
あー、甘夏食堂懐かしい。この人も学生の頃よく食べに来てくれて。まだやってたと思うから、またみんなで一緒に行くのも楽しそう。」
あのとき食事に誘われてOKした私、あの食堂を選んだ彼。今見えている光景は、そんな星の数ほどの選択の上に成り立っている。
1つでも違ったらここにいないかもしれないし一人でいたかもしれないし、別の人と来ていたかもしれない。横にいるのが、夕で良かった。
その後みんなでカレーを食べた。赤ちゃんは蒸した野菜を美味しそうに食べていた。
最近は忙しくてあんまり話せていなかったから、仕事のことや夫婦生活、結婚式の裏話など色んな話ができて楽しい時間だった。あっという間に数時間が経ち、お開きとなった。
家に帰ってからは、昨日同様だらだらと過ごしながらも刻一刻と迫る彼との別れの時間のことが頭を離れない。
またちょっとしたら会えるけど片時も離れたくない、そんな思いでいっぱいだった。
夕食後、彼にベランダに出てもいいかと聞かれたのでいいよって答える。高層階でもないから下に記者さんでもいたら記事になるかもしれないが、書かれて困ることはない。
私たちの話は、すでに小説にも映画にもなっているのだ。




