第69話 怖くない
「さっきやり切ったつもりですけど、一応お二人の様子を見にきたんですが……。その様子だと大丈夫そうですね。」
「大丈夫。」「大丈夫だよ。」
「それじゃ、おじゃま虫はお暇しまーす。あとはお若……くもないお二人で。」
玄関先で二人に見送られるのは新鮮だったけど、幸せな光景だった。次は、旦那さんも合わせて四人とかで会えたらいいな。
部屋に戻ろうとする彼の手を引き、キスをした。さっき急に手を繋いできたことへの仕返しのつもりだったが、そこからはお互い止まれなかった。
ベッドの上で、シートと彼の腕に包まりながらゆっくり話をする。
「五島気に入っているみたいね。たしかにいいところだったわ。」
「いいとこだよね。でも、今の3年生が卒業したらこっち帰ってこようと思う。一緒に暮らそう。」
「いいの?向こうの友だちとか、転職活動も大変じゃない?」
「友だちも大事だけど、俺にはえりかが必要だから。
向こうで高校国語の本を出させてもらったんだけど、そのときお世話になった教育出版社の人に東京の私立高校で先生しないか?って誘われてはいるんだよね。
でも、また都立高校の試験受けてみるよ。ずっと公立で育ってきたし、そっち方が性に合ってると思うんだ。」
「じゃあ私は引っ越しの準備するね。
久しぶりに来たら東京ボケ起こすと思うから、お姉さんが色々教えて差し上げよう。」
「頼むわ。一度都落ちした者からしたら、東京ってこえーから。あとはお世話になった人たちに報告しなきゃね。もちろん二人で。」
「うん。
何かね、私たちって12年もブランクがあるじゃない?
だからもしもう一度付き合えたら、怖いって感じるかなと思ってた。幸せすぎて怖いとか、また上手くいかなかったら怖いとか。
でも、全然怖くない。むしろ、今まで私怖がって生きてきたんだなと思った。だから、もう離さないで。」
そう言って、そっと抱きしめる。
「俺も、もう怖いとは思わないかな。
もしあの頃にそのまま付き合ってたら記事になってえりかのキャリアに傷を付けたらどうしようとか思ってただろうし、もし別の人との記事が出たらそれはそれで嫌だったろうし。」
「この12年、誰とも付き合ってないんだよね?記事のこと根に持ってる?」
「別れた後だし、根に持ってるわけないじゃん。隣にいた彼に嫉妬はしたけどね、普通に。」
「ふーん。嫉妬してくれたんだ。
先生こそ、えらいおモテになられるようで。若くて可愛い生徒さんたちとさぞ仲良くしてらっしゃるんでしょうね。」
「いやいや、さすがに無理があるでしょ。12年長かったけど、他の人が目に入ったことは一度もなかったよ。これからもね。」
そんな彼の瞳に、私が映る。吸い込まれるように唇を重ねた。




