第60話 映画化
プルルル。
ディスプレイに映る、『夏井 涼子』の名前。懐かしい名だ。
もう3年も前になるが、当時私はアイドルをやっていて雑誌に連載をもっていた。題材は、高校時代の恩師と同じ事務所の先輩である女優との恋愛。
私の妄想ではなく、二人の実話をもとにしたお話だった。結論から言うと、小説の中でも現実世界でも二人は結ばれなかった。
涼子さんは、連載を担当してくれた編集者さんだ。大変お世話になった。書籍化までできたのは、涼子さんをはじめとする編集者さんたちのおかげでしかなかった。
この3年のうちに、私はグループを卒業しえりか先輩を追いかけて女優になった。先輩とは、今でも仲良くさせてもらっている。プライベートでは、卒業後に出会った同じ業界の人と結婚した。
なんやかんやで色々あったけど、充実した毎日を送っていた。
「もしもし。」
懐かしさを覚えながら、電話に出る。
「もしもし。突然お電話してすみません。夏井です。覚えてらっしゃいますか?」
忘れるわけがない。
「もちろんです!またお話できてうれしいです!」
「きゃー!うれしー!」
そういえば、この人私のファンだって言ってくれたな。耳を少し遠ざけながらも、思い出が蘇ってくる。
「あ、ごめんなさい。今日はご報告がありまして。マネージャーさんから直接連絡してあげてと言われたので、お電話させてもらいました。」
なるほど。マネージャーさん通さずの電話は珍しいなと思っていたが、そういうことか。
「心して聞いて下さいね。いいですか?言っちゃいますよ?
実は……連載していただいた小説の映画化が決定しました!」
え……?映画化?ちょっと頭が追い付かない。自分の中であの作品はもう、過去のものとなっていた。
「あれ?聞こえてますか?映画化です!めっちゃすごいことですよ!
編集者として鼻が高いです。絶対いい映画になりますよ!」
「映画化って、本当ですか?たしかに、小説が原作の映画って多いけど……。
まさかって感じで実感が全然湧かないです。」
「正真正銘のホンマもんです!
それでお願いというか、お忙しいところほんと恐縮なんですが、追加で描き下ろしのエピソードをお願いしたくって。
一応マネージャーさんからは許可いただいたんですけど、いかがでしょう?」
描き下ろし。ということはまた涼子さんたちと仕事ができるのか。断る理由はなかった。
「ぜひ、やらせてください。あれ以来書く仕事はしていなくてまたご厄介おかけしますけど、よろしくお願いします。」




