第56話 また会えたら
プルルル。
夕に電話をするのは、いつ以来だろうか。
間もなくして彼の声が聞こえてくる。
「もしもし。」
「……。もしもし。急にごめんね。」
私は、目に溢れんばかりの涙を溜めながら次の言葉を絞り出す。
「急な仕事が入って、そっち行けなくなっちゃった。色々してもらったのに本当にごめんなさい。」
「……。そっか。会えるのすごい楽しみにしてたから、残念だな。」
気まずい空気が流れ、慌てて言葉を続ける。
「ホントごめんね。私、約束守れない女みたい。また迷惑かけちゃうと思うし五島旅行は中止します。
……。会いたかったな。」
最後に、堪えきれず本音が漏れる。
「仕事頑張る女の間違いじゃん。
分かった。無理せずに。」
「夕も。また新学期始まると思うけど、無理せず。
それじゃあ。」
「あ待って。まだ切らないで。
……。
あのさ、俺がそっち行っても会えないのかな?」
「……。ごめんなさい。ちょっとトラブル対応みたいな感じだから、いつまでかかるか読めないの。」
神様、ありがとうございます。今の言葉、私に会いたいってことですよね?私と、一緒に過ごしたかったことですよね?
感謝します。そう思ってくれただけで、私はこの先一人でも生きていけます。
「無理言ってごめん。じゃあ最後に1つだけ。
またいつか、どこかで会えたなら、そのときは一緒の時間を過ごそ。過去のこともぜーんぶ受け止めてさ。」
「うん。
そうだね。
じゃあ、マネージャーさんに連絡しなきゃだから切るね。バイバイ。」
涙腺も耳も心も、何もかもが限界だった。私は逃げるように電話を切った。
その後のことは、あまりよく覚えていない。
何も悪くないマネージャーさんにめちゃくちゃ謝られたり、社長が相手さんに平謝りしていたり。
撮影は、これまでの経験だけで何とか乗り切った。終わった後、気力はほとんど残っていなかった。
撮影終わり、社長から労いの言葉をかけてもらった。
星加さんも迷惑かけて本当に申し訳ないと言っていると。
過ぎたことは、もうどうでも良かった。
こういうとき一人になったらいけないなと思い、その日は急きょ実家に帰った。そういえば最近はあまり帰っていなかった気がする。母とはよくランチに行ったりするけど、家には全然帰っていなかった。
一応家にいるか確かめるため、先に連絡しておいた。ただでさえ暗い顔をした娘が、それも突然帰ってきたらさすがに母もびっくりするだろう。
「ただいまー。」
母は私の様子を見て何かを察したのか、何も聞いてこなかった。こういうとき、母の偉大さを痛感する。
お母さん、今度は私頑張ったよ。ダメだったけど、頑張ったよ。そう心の中で報告し、私の意識は夜の闇へと溶けていった。




