第54話 鉛砲
「うん。見たよ。」
星加さんはキャリアのわりと序盤に結婚出産を経て、今はいわゆるママタレントとして活動している。
それもあって、なかなか現場で顔を合わせることがないのかもしれない。
何でもお金持ちの一般人と結婚したらしいが、SNSとかは派手すぎず上手にやっている印象だった。昔から、その辺の立ち回りとかはすごく上手い子だったと記憶している。
そんな彼女が、年下のイケメン俳優と不倫しているという記事が最近出た。
読んではいないけど、たぶん言い逃れできないくらいの内容だったんだろう。マネージャーさんに軽く聞かされたけど、CM契約も数社あったらしく事務所もここ数日は何だか慌ただしい様子だった。
今朝珍しくテレビをつけたら朝のワイドショーで彼女の謝罪会見が取り上げられていて、すぐに電源を切った。知り合いの謝罪会見ほど、見ていて気持ちが悪いものはない。
こういうことが起きるたび、人気商売の光と影を思い知らされる。
彼女は要領が良さそうなタイプだと思っていたから、今回の報道は正直意外だった。別に仲間ってわけではないけど、顔見知りとしては何やってんの……という気にもならなかった。
報道がすべて真実とは限らないし、彼女にどういった事情があったのか私には知る由もない。それに、他人様の醜聞に首を突っ込むほど私の身の丈は大きくない。
「なんか意外っていうか。星加さん、別に好きな先輩ってわけじゃないんですけど器用なタイプに見えたので。」
みんな、彼女の見え方は同じなのね。
「まぁ、私たちも気をつけましょ。記者さんじゃなくてもすぐSNSで炎上する時代だし。」
「先輩は、早く先生とすっぱ抜かれて堂々の交際宣言しちゃってください!なんちゃって。
でもほんと、うーーんと楽しんできてくださいね!満面の笑みの先輩にお会いするの、楽しみにしてます。
あ、おみやげは椿クリームでお願いしますね!」
「椿クリームね。買ってくるわ。引き続き、連載の方もよろしくお願いします。」
こういうちゃっかりおねだりできるところも、後輩力なんだろうなぁ。
福岡へと向かう日、夕に会うのを翌日に控えた日の朝、マネージャーさんから電話がかかってきた。何だか、嫌な胸騒ぎがした。
だってその日から私は夏休みで、これまで長期休暇の間にマネージャーさんから連絡がきたことは一度もなかった。
私は、おそるおそる電話に出た。




