第46話 彩り
エピローグ
(夕視点)
あの日、つまりお母さんと約束を交わした日を境に、僕の彼女に対する思いはゆっくりと育っていった。元に戻ることはないと分かっていながら元カノのことを思い続ける。これは、想像以上につらいことだ。
元サヤを願ってその人を思うことの、おそらく何倍もきつい。パンドラの箱ではないけれど、やっぱり希望がない中では人間は生きていけないのだ。
普段からしんどい中で、大変な時期は何度かあった。
最初は、彼女の広告などが目に入るだけで心が痛んだし、熱愛報道が出たときなんかはカラオケに行って叫んでみたこともある。あのときは心が壊れそうだったか少し壊れていたんだと、今になって思う。
でも7年が経った今、結果的に自分の選択は正しかったのだと思う。もし忘れていたなら、今でも彼女を愛せてはいなかっただろう。
人の一生というものは、人によって彩られる。そしてその人が誰かによって、彩度も違ってくる。だから僕の人生は、眼前の五島の海のように、それはそれは色鮮やかにかがやいている。
徳山さんからオファーをもらった番組の出演者欄に彼女の名前を見つけたとき、体の芯から熱くなるような感覚になった。
それなのに、楽屋では全然話せなかった。クールぶって一言二言しか交わせなかったのは、別に昔の生徒の前だからとか彼女に気を遣ってとかではなく、ただ単純に、彼女を今でも女性として意識していたからに他ならない。
今の距離感でいいのだと、時々心からそう思う。もし彼女が今この海岸で隣で笑っていたら、彩度が高すぎるのかもしれない。
このつらい7年間を、決して一人で乗り越えられたわけじゃない。支えてくれた存在があった。彼女との初デートで行った、あの食堂でバイトしていた後輩の森だ。
森とは卒業してからも時折ご飯に行っていたし、東京を離れた今でも定期的に連絡は取り合っている。彼女は二人の関係を包み隠さず知っていたから、何でも話すことができた。
えりかとも、たまに会っているそうだ。板ばさみにして申し訳ないところはあるが、とにかく口が堅くて、それでいて聞き上手な彼女には何度も救われた。
別れたこともこれから離れて彼女を思うことも最近になって再会する機会があったことも、全部ニコニコしながら聞いてくれた。彼女は相談しているこちらが心配になるくらい、いつもいつも穏やかな笑みを顔に湛えていた。
そんな彼女から先日、結婚するという報告を受けた。式にもお招きいただいたから、また東京に行くことになりそうだ。交通費だけでも馬鹿にならないため、一緒に出席する森の同級生に泊めてもらうことにした。
彼女は、大学時代から1個下の子とずっと付き合っていて、この度その恋を成就させたのだ。
夫となる彼とは学生の頃は話したことなかったが、2人が付き合い始めてからは、会うときは3人で会った。五島に行ってからは2人とZoomを繋いだこともある。
こういう関係を、お似合いの2人っていうんだなと、まるで親戚のおじさんみたいにしみじみと思った。




