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第44話 隠し事

エピローグ

(夕視点)

 徳山さんが僕たち二人のことを小説にしてくれると聞いたとき、正直複雑な気持ちだった。でも、別に二人のことが世間にバレるわけではないし、教え子の頼みはなるべく聞きたかった。

 本音を言うと、少しはうれしい気持ちもあった。なぜだかは、うまく説明できない。もし自分がOKしても、嫌ならえりかが断ってくれるだろうとも思った。


 一応、何かエピソードの提供をと言われたときのために事前に色々と考えた。一度だけ頼まれたときは、食堂での初デートの話を送った。

 その後は特に頼まれることもなく、次にマネージャーさんから連絡をもらったのは連載日が決まったときだった。

 第1話は、僕らが再会する場面から描かれていた。それから、月刊の雑誌に連載されるこのお話を欠かさずに読んでいた。マネージャーさんがマメに発売日を教えてくれるけど、大体は把握できていた。


 徳山さんの国語の成績はうろ覚えだけど、正直こんなに文才があったのかと驚いた。自分たちの話なのに、まるで初めて読む小説のように自然と登場人物に感情移入することができた。

 身に覚えのあるエピソードも自分が見ていた景色よりもキラキラしていて、美しく感じた。


 大体の話の題材は、彼女からの話で事足りるだろう。二人に隠し事はなかったと思っているし、感情の共有も並のカップル以上にはできていたと思う。

 ただ、自分しか知らないことが一つだけは確実に存在した。なのでもし、次にエピソードを求められることがあればそれを提供しようと思う。おそらく書くとしても、小説の終盤になりそうなエピソードだ。



 それは、二人が別れた後のことだ。

 付き合っている頃、えりかのお母さんには本当によくしてもらった。就職した時はお祝いもいただいたし、軽く喧嘩したとき仲裁してもらったこともあった。

 だから、えりかとはうまくいかなかったけれど、お母さんには最後に挨拶をしておきたいと思った。

 今考えたらおかしな気もするが、別れた数日後に彼女の実家を訪ねた。別れたての今しか彼女が家にいるいないが分からなかったから、機を逃していたらもうお会いできていなかったことだろう。



 ピンポーン。

ご在宅か半信半疑だったが、お母さんは運良くいらっしゃった。

「いらっしゃい。今日はどうした……は野暮ね。あの子のここ数日を見ていれば、大体の話は想像がつくわ。」


「はい。えりかさんとお別れすることになりました。

 娘をよろしくと言っていただいたのに、お母さんには大変お世話になったのにこんな結果になってしまい申し訳ありません。」

 心の底から、お詫びの気持ちを伝えた。

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