第43話 緩める
「前はね、口が軽い人と約束を守らない人が嫌いだった。
うわさ話って言われてる人の立場になれば嫌な気がするだろうし、約束も、破られた側の人が可哀想だって思ってた。まぁその気持ち自体はね、今でも変わらないんだけど。
でもその気持ちが強すぎたら、人が離れていくことがあるなって。
人を傷つけたくてうわさ話する人、もちろんそういう人もいるかもしれないけどたぶんほとんどの人はストレス発散とかで言ってるだけ。
約束だってわざと破る人なんてほとんどいなくて、それぞれの事情があるんだと思う。
それに気が付けたのは、『ゆるす』って言葉について知ったから。国語教師なのに最近まで知らなかったんだけど、許すって緩めるからきてるんだって。
『許せない!』って思うとき、僕らの心はすごい緊張状態にあるんだと思う。それをそっと緩めてあげるイメージって聞いて何だか心の枷が外れた気がしたし、もっと早く知りたかったなって。
自分も過去に、心を緩められなかったこと、あったなって。」
聞かなくていいって言われたから、素直なクラスメイトたちの多くは内職や仮眠など思い思いに過ごしていた。
でも、もちろん先生は何も言わなかった。西原先生は、言うこととやることが食い違うことはない人だった。そんなところも、私は大好きだった。
ピピピピッ、ピピピピッ。
目覚ましの音で、私は夢うつつの中体を起こし朝陽を浴びる。なんやかんやで、時計の針は朝の7時半を指していた。
頭も段々と冴えてきて、昨日聞いた先輩の話と夢の中で思い出した当時のホームルームとが繋がる。
先生は、約束を破った先輩を受け入れられなかったことを悔いながら私たちに話していたんだなって。7年の時を経て知ることができた。
後悔するだけじゃダメですよ、先生。先輩に謝る機会、必ず作ってみせますから。
まずは、今日のライブ頑張らなきゃ。枕が合わなかったのかいつものように熟睡はできなかったが、そのおかげか忘れていた記憶が呼び起こされたので、体は自然と軽く感じた。
『えりか、今月号読んだ?今回も力作ね。』
母から、毎月のようにあゆちゃんの連載に対する感想が届く。あゆちゃんには悪いが、もういっそ連絡先交換して直接送ってほしいと思っている。
言われなくとも、私も毎号欠かさずに読んでいる。小説の中の私たちは、より正確には過去回想の中の私たちはまだ付き合ってはいなかったが、もうすぐ告白されるのだろう。しばらくは幸せな時間が続きそうだ。
ところで、彼もこの連載を読んでいるのだろうか?
ううん。読んでるに決まってる。題材になることは知っているんだし、思い出したくない過去だとしても教え子の初連載を無視する人ではないはずだ。
この前交わしたのはほんの一言二言だったけど、彼は変わっていなかったように思う。変わったとすればより大人にというか、人間的に深くなっているんじゃないかな。私もこの7年駆け抜けてきたつもりだが、まだ彼に追いつけてやしない。
夕。あなたの目に、今の私はどう映りましたか?




