第42話 決意
「付き合っていた頃、彼の家で恋愛映画を観たことがあってね。」
そう言うと、先輩は寂しげな声でこう続けた。
「それは、別れた男女が再び会って愛が復活するといういわゆる元サヤを描いた作品でね。当時流行っていた感じのストーリーで、名作と呼ばれるほどではないけど私は普通に楽しんだわ。
観終わった後、彼と復縁はありやなしやの話になった。映画の感想の延長線上にある、何でもない会話だったと思う。
私は、愛が再燃することはあると思ってる派。色んな経験を乗り越えた二人であればやり直せると信じているし、今でもその考えは変わってないわ。
そして彼は、否定派だった。再会したとしても、別れた原因はきっとまたいつか二人の関係にヒビを入れるだろうって、そう言ってた。
それもあるのかな。そんなささいな会話の記憶もあって、どうしても、勇気が出ないの。だからこの恋は、今世では成就しないのよ。」
「そうですか……。」
私は相変わらず、なかなか思いが口を衝いて出ない。
二人は、自力では関係を修復できないところまできているのだと、そう理解した。
でもそれは、至極当然の話だろう。なぜなら、もう7年も前に別れているのだから。
たとえば、奇跡的に二人とも酔った状態で再会し翌朝ベッドの上で裸で起床する。そんな映画みたいなことでも起きない限り、復縁することはない。
だったら、私が二人の仲を修復する手伝いをしよう。このとき、そう決意した。私が、きっと二人を結ばせる。
とりあえず、まず私がすべきことは、この小説を責任もって完成させること。
「今日はお邪魔しました。私、絶対にいい小説に仕上げてみせます。期待しておいてください!」
急に声が大きくなった私に驚いた先輩は目を真ん丸にさせた後、
「優しいのね。
情けない姿見せちゃって、ごめんなさい。引き続き、応援しているわ。」
と言った。
翌日、私はツアーのため遠征先に移動し早めにホテルの部屋に入った。その晩は、振り付けの確認と気分転換に執筆を少し進め、翌朝も早いため日付が変わる前に寝床に着いた。
その晩、夢をみた。
高校生のときの私だ。先生がホームルームで何か話している。内容は……先生が、元カノのことを話している。
もちろん現実にそんなことはなかったし、今や大人気となった女優と付き合っていたなんてお首にも出さなかった。
内容は少し改変されているけれど、その中には事実も混ざっていた。先生が『ゆるす』ということについて語ったホームルームは、実際にあった。
「みんなは、何か許せないことってある?自分の場合は、こだわりがイコール許せないことみたいになっていて。
後悔っていうか、これからはこう生きようと思ってることがあるんだ。自分の話ですまないけど、今日は聞かなくてもいいからちょっとだけ話させて。」
その日のホームルームは、珍しくそんな自分語りから始まったように記憶している。




