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第40話 幕引き

「今日はごめんなさい。八木ちゃんにも、悪いことをしたわ。」


「いや、打ち上げまで大変だったね。」


 そこで話題は移れたのに、何だかその日は余裕ぶって見えた夕に思いをぶつけてしまった。

「何それホントに思ってる?怒ってるなら怒ってるって言ってよ。」


「怒れないよ!仕事の打ち上げって言われたら怒れないけど。俺も仕事の打ち上げ断った経験あるけど、なかなか若手だと気を遣うし、芸能界はもっと厳しいのかなって。違う世界にいるから。

 でも八木の気持ちは考えあげてほしかったなって思うし、約束を破ったのは何かえりからしくないというか。」


「私らしいって何?怒りたいなら怒ればいいじゃん!そんな、いい彼氏面しないで。八木、八木って、私の気持ちも考えてよ。」


 彼は昔、約束を延ばしたらその相手と二度と会えなくなったことがあるらしく、約束を破ることを心底嫌っていた。そして、私もそれを聞いていた。

 でも私はそんなの知らないし、いい人ぶられて自分が惨めに思えたことでさらに八つ当たりをしてしまった。


「これに関しては、考えは変わらないかな。えりかが知らない世界に身を置いているから、いい彼氏を演じるしかないじゃん。

 俺なりに、えりかの気持ちを考えてそうしてるし、かっこいい人たちがウジャウジャいる芸能界の人と付き合い続けるのはしんどいときもあるよ。

 誰かに取られたりしないように、せめていい彼氏でいなきゃって思うのは悪いことなの?」


 売り言葉に買い言葉。もう、その日はお互い何を言ってもダメだったと思う。

「そんなこと言うなら、そんなしんどい思いしてまで付き合い続けるならいっそ別れる?」



 人生で最も悔いが残るのなら、この瞬間だ。というか、この瞬間をおいて他にはない。

 言い終えた後の静寂の時間は、永遠に続くのではないかと思うくらい、長く感じた。


 彼は、じっと私の目を見つめて、

「分かった。」

静かにそう言った。


 それで終わり。なんて脆い関係だろうか。当たり前だけど、告白して付き合って月日を一緒に重ねて、何か契約書があるわけではない。

 二人を繋ぎ止めてくれるものは、何もなかった。


『本気で言ってるの?本気じゃないよね?別れたくないよね?私は別れたくない。ごめんなさい。ごめんなさい。』

 本当はそう、叫び出したかった。別れを軽々しく口にしたこと、心から詫びたかった。でも、その叫びが空気を震わせることはなかった。


 それから、彼がお会計をし、互いに何も話すことなく店の外で別れた。

 私は振り返った。最後の望みを込めて振り返った。でも、彼の背中しか見えなかった。

 映画みたいに、私が前を向いたあとあなたも振り返ってくれた?分かったって言ったこと、あなたも少しは後悔してくれた?

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