第33話 貯金箱の中身
せっかくだからと、持参した羊羹でティータイムすることになった。
「徳山さんは夕くんの教え子なのね。番組、拝見したわ。」
「そうなんです。」
ちらと、先輩の方を盗み見る。
先輩がそんな私の目線に気付いて、こう言った。
「大丈夫よ。お母さんは彼のこと、というか私たちの関係について知ってるから。何度か家に来たこともあるしね。当時はまだ、私実家暮らしだったし。あなたが今日来る理由も話してあるわ。」
「そう……だったんですね。西原先生には、1年間だけでしたけど大変お世話になりました。」
「えりかみたいに詳しくはないでしょうけど、私にも手伝えることがあれば遠慮せず言ってね。夕くんと面識はあるし。それにしても小説だなんて、アイドルさんも大変ね。」
その後、思い出のものは先輩の部屋にあるからと、部屋の中に通してもらった。
「失礼します。」
なんというか、とても質素な先輩らしい部屋だった。色もピンクとかではなく、黄色とか水色とか淡い色合いで調っている。
先輩がおもむろに、くまの置き物を手に取った。
「これはね、彼に初めてもらった物なの。単なるオブジェではなくて、貯金箱なんだ。
私の20歳の誕生日。それこそ、彼が初めて家に来た日だわ。あとで知ったことだけど、彼、鎌倉の雑貨屋さんまでわざわざ買いに行ってくれたみたいね。」
そこから、その日の出来事を聞かせてもらった。
一通り話し終えると、先輩はどこからか鍵を取り出して、箱の底にあった鍵穴に差し込む。
「結構ちゃんとした作りでしょ?もう12年使っているけどどこも壊れたりはしてないわ。」
それは、先輩が大切に手入れしているからです。そう思った。くまの貯金箱は、新品と言われても気付かないくらいにきれいに磨かれていた。
鍵を開けると、中から折り畳んだ小さな紙たちが出てくる。小銭の音はしなかったから、てっきりお札でも入っているのかと思ってた。
「日記を書くのはなんだか性に合わなくて。めんどくさがりだからかな。
その代わり中にね、彼との忘れたくない思い出とかその時の自分の感情とかを書いて仕舞っているの。
たとえばこれとか。」
そう言って見せてもらった紙には、
『7月7日
七夕祭りで、彼から告白された。
私も、好き。』
と書かれていた。
「何だかもう、恥ずかしさを通り過ぎて懐かしさすら覚えるわ。何でも協力するって言っちゃったし、好きに見てくれていいよ。」
遠い目をした先輩は、そう言ってはにかんだ。
くまちゃんは、貯金箱ならぬ先生への想いをためる箱として、大切にされていた。先生は、こんな風に今でも大事にされていること知っているのだろうか。こんな風に大事にされていると知ったら、どう思うのだろうか。
細く折り畳まれた紙は本当にたくさんあって、想いの深さを物語っている気がした。
さすがに他の紙を勝手に見るのは憚られるが、とりあえず、お二人が付き合う場面については知ることができた。




